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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編①】

おひさです、SHO+XENONです。

 まず正直に言って、ウマ娘、めっちゃナメてました。正直「また艦これの二番煎じ的な芸のない擬人化物か」とさえ思ってました。ええ。このことを懺悔の意もこめて先に言っておきます。

 でも、アニメがあまりに高評価だったのもあって、じゃあ見てみるかと思ったわけですよ。そしたらね、もう何度泣かされたか

 第2期アニメのリアルタイムだったので、逆に言うと第1期は後追いになっちゃったわけですよ。なので、トウカイテイオーやメジロマックイーンの活躍【以前】がどんな描かれ方をしているのか、とても気になりまして。

 色々見ていて分かったのが、このアニメ、実にうまく物語が作られているということです。これは表現一つ一つの細かい部分も含めて。声優さんの演技も良いし、世界観の描き方も良い。普段アニメをあまり見ない(見ても刺さることが稀な)私が、珍しく本当にガッツリと、何回も見返してしまいました。

 そんなアニメに対してグルメ過ぎる私が、見ていて気付いたこと、巧みだと思ったことを、長々とではありますが、ここにしたためようと思った次第です。というわけで、まずは見てやってください。

早速語り出す前に①まず最初に

 すっかりウマ娘の世界観のファンになってしまった私ですが、できるだけ客観的な視点を維持して書いていこうと心がけようと思います。
 その中には、やや辛口な評価も含みます。批判的と言っても良いでしょう。しかしそれは別に、悪口を言いたいわけではありません。その批判の部分も含めて私の評価であると同時に、「優れているものだからこそついつい気になってしまったこと」だということです。もともと優れていないものほど優れた部分がよく見えるのと同じく、優れているものほど僅かな瑕や汚れさえ目立ってしまうというものだからです。そのことを念頭に置いてください。

 ちなみに、私が好きな馬(元ネタの方)は、ウマ娘に触れる前からオグリキャップナリタブライアンライスシャワーサイレンススズカディープインパクトオルフェーヴルなどでした。ウマ娘としてもオグリキャップが好きですが、トウカイテイオーメジロマックイーンナイスネイチャマチカネタンホイザに特に愛着があります。

早速語り出す前に②擬人化の是非について

 いわゆる擬人化モノというものに対する、私個人の考え方も、念の為先に書いておこうと思います。

 私は「どちらかといえば肯定的」に捉えています。
 私の考えとしては、人以外のものにスポットを当てて物語を作る時、多かれ少なかれそこには擬人化という要素が含まれていると考えています。

 例えば、ライオンキング。主人公はライオンですし、周囲を取り巻く登場キャラクターも軒並み動物ですが、人の言葉で喋り、人のように思考し、人のような感情を出します。冷静に考えて、ライオンが人と同じような思考や感情を持っているはずがありません。ですが、このように擬人化要素を加えることで、人は物語をより理解しやすくなり、また感情移入しやすくなります

 別の例を出すなら、機械。例えば探査機はやぶさの物語は、多くの人に感動を与えました。それはまるで、探査機はやぶさを少年や少女のようなものだと捉え、まるで「壮大な初めてのお使い」を見ているような気分にさせたからという側面が強いのではないかと、私は分析しています。このことからも、人は人以外のものに対しても、人と同じように捉えるからこそ、感動するのだろうと思うのです。

 そうであるなら、軍艦も擬人化される昨今、競走馬が擬人化されることにどんな問題があるでしょうか。過去にも『みどりのマキバオー』という競走馬にスポットを当てた漫画が存在していましたし、人語を喋り人のように思考し人のような感情を持つことは擬人化に違いありません。『みどりのマキバオー』と『ウマ娘』の違いを大雑把に挙げるなら、片や擬人化の度合いが姿かたちにまで及んでいない一方で片や耳と尻尾を除いてほぼ擬人化されている、その点くらいなものです。

早速語り出す前に③女性蔑視だという批判について

 一部で『ウマ娘プリティーダービー』に対し、女性蔑視、女性差別だという批判があったようですが、これについては否定……というより、「あんたバカぁ?」という感想を持っています。

 冷静に考えてみてください。彼女達は活躍しており、注目を集めています。つまりウマ娘の世界では女性は大いに社会的に認められ、価値を重んじられ、ちゃんと評価されています。いわゆる女性差別・女性蔑視的な側面は何処にあるでしょうか?

 しかもこの世界には、この手の作品にありがちな「男性排除」もありません。作中には男性も数多く登場しますし、しかもトレーナーのように信頼され活躍している男性も多くいます。その状況であっても、女性も同じようにトレーナーなどとしても活躍しており、社会的に平等に扱われているのです。何処が女性蔑視・女性差別なのでしょうか。

 つまり、この作品に対して女性蔑視・女性差別だと叫ぶ者は、「一切中身を見ないで評価している」のです。中身を見ればそのような評価をする余地などないことが、火を見るよりも明らかなのですから。

 敢えてこのようなセクシャルな問題に照らし合わせて問題提起をするなら、「ウマ息子が存在しないことが男性差別である」ことくらいです。しかしそれについては、ウマ娘というものがそもそもエルフ的なものであるという説明がされており、この世界においてはそのようなものなのだから、そこにツッコんでもなぁ……という類のものです。恐らくはX染色体にしかウマ娘になる因子がなく、Y染色体が入るとそれが無効化されてしまうので、仕方ないのです。ただの想像ですが。


 さあ、これくらいにして、1期の1話から見ていきましょう。

第1話①冒頭

 冒頭の世界観の説明の後、まずはど田舎者丸出しの少女が上京し、電車から見える車窓に興奮しているシーンから物語が始まります。さり気なく乗客との会話の中で、トレセン学園というものがどういうものなのか、そしてそこに行こうとしている少女が「いかに特別な存在か」を、手短に、簡潔に、分かりやすく説明します。
 下車する間際に質問に答える形で、スペシャルウィークという名を明かします。競馬がわかる人なら、この後何が起こるかがだいたい予想できるというものなのですが、この後の展開は正直、そこで予想していたものとはだいぶ違うものになるだろうと思います。
 ちなみに、この時乗っていた電車は、ラインの入り方などから京王7000系であると思われます。府中に向かうのは京王線ですので、忠実に再現されていると言えますね。そして、東府中駅に停車していることから恐らく特急ではなく、しかし高速運転をしていることから急行ではないかと思われますが、(現実では)競馬場の最寄り駅の一つということもあり、敢えて特急に乗らなかったのではないかと思われます。もっとも、トレセン学園の最寄り駅は東府中駅ではなく次の駅(府中駅?)のようなので、これが府中駅のことなら素直に特急に乗れば良かったことになりますが、その辺も「やりがち」なことを描いていて、とても現実的で親近感が湧きますね。

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 この後、駅員さんとのやりとりでスペシャルウィークがレース場(現実で言うところの競馬場)に向かうことになるのですが、後にこれは別の形で再現されることになります。その時に改めておさらいしましょう。

第1話②レース場にて

 さて、スペシャルウィークは自分の足で(自動車より速く)走り、レース場に到着します。入り口には過去の名場面が写真展示されているようで、シンボリルドルフ、オグリキャップ、フジキセキ、エアグルーヴ、ヒシアマゾン、ナリタブライアン(と誰か一人)の姿が描かれています。このことから、すでに彼女らは活躍していることが伺えます。現実の話とリンクさせても全く違和感はありません。ただ、残念ながら第2期と照らし合わせると、若干時間軸がブレているようにも感じられることになります。これは第2期の解説の際にまた触れましょう。

 興奮して府中レース場のあちこちを見て回るスペシャルウィーク。偶然見かけたパドックで、一人のウマ娘に目が止まります。1番人気の8枠12番、サイレンススズカ。ここで彼女に目を奪われる最中、もうひとりの重要人物との運命の出会いを果たします。それも非常に心証悪い形で。

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 ぎゃー痴漢! しかしこの出会いが、後に彼女の夢を叶えることになります。こういうのも、物語を描く上ではよくある手法ですが、良いからこそよくある手法として確立されているわけでして。

 さて、レースが始まるなり、サイレンススズカは大逃げ爆逃げ。1000mを57秒8という驚異のペースで逃げ切り、そのまま1着でゴールインしてしまいました。これに目を奪われるスペシャルウィーク。ここから、後々までサイレンススズカへの強い憧れが始まるのだと予感させますね。実際にどうなるかは、後々じっくり見ていくことにしましょう。
 その中で、先の謎の男の「アドバイス」が、今回のサイレンススズカの走りをもたらしたこと、そしてそれが本来のトレーナーの指示ではないことを表しています。この謎の男が何者なのか、そしてこのことがこの先どんな未来をもたらすのか、それを想像させる内容になっています。

 さりげなく「レースの後にはウイニングライブがある」ことが説明され、すぐに夜に場面転換してライブが始まります。これに関しては、「そういうもの」なのだという世界観の説明であると同時に、スペシャルウィークの今後への希望と、「何か(重要なことを)忘れている」というオチに繋がります。18時までにトレセン学園に行かなくてはならないのにのんびりしていたスペシャルウィークは、初日にしていきなり門限やぶりをしでかし、締め出しを食らうことになります。

第1話③教室にて

 翌朝、スペシャルウィークは理事長秘書の駿川たづなに教室まで案内されます。回想ではどうやら仮眠室で寝ることになったようで、寮長フジキセキから呆れられていたことが描かれています。教室に入るなりいきなりズッコケることになるのですが、これも後に再現されることになります。

 この教室でハルウララ、クラスメイトのセイウンスカイエルコンドルパサー、そしてグラスワンダーとの初顔合わせになります。北海道から来たというと、エルコンドルパサーは「ふ~ん、田舎者さんなんだぁ?」とわざとっぽくいたずらっぽく言いますが、無言のグラスワンダーの肘鉄によるツッコミが入ります。このシーンだけでも、何となくそれぞれのキャラ付けや関係性が伺えます。長々と説明しない辺りがストレスフリーにお話を楽しめますね。ちなみにこの顔ぶれ、史実を知る人からすると、物凄く豪華であると同時に、違和感を覚えるものになっています。それは史実を知らない人でも、この後お話を追っていけばすぐに分かるようになっています。

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 授業の内容を通して、視聴者にも彼女たちウマ娘の世界のレースの仕組みを知ることになります。競馬に詳しい人なら言われなくてもわかることですが、このような形でさり気なくシステムに触れることで、より競馬について全く知識のない視聴者に対しても易しく伝えることができています。この「さり気なさ」が、やっぱりストレスフリーで良いですね。

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第1話④食堂にて

 その後、食堂で皆でお昼ごはんです。こうして見ると、意外とウマ娘って人間と似たようなものを食べるんですね。どうやらニンジンが特に好きだったりはするようなのですが、焼き魚だったり味噌汁だったり漬物だったり、フライにタルタルソースだったりと、人間の味覚でも絶対美味しいだろうものを食べていることが分かります。

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 また、ミモザ、デネブ、カペラ、ベテルギウスなど、色んな一等星の名前の付いた「チーム」が存在しており、メンバーを募集しているようですね。チームについては後により詳しい説明がなされます。
 それにしても、グラスワンダー、エルコンドルパサー、セイウンスカイの3人、なんかドン引きしているように見えますが、何にそんなにドン引きしているんでしょうか。

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 向かいに座るのはスペシャルウィーク。テーブルの上には、味噌汁、サラダ、大根おろしの乗ったハンバーグにニンジン、そして、超特盛ご飯。先の3人と比較しても明らかに盛りが多いです。なるほど、スペシャルウィークは大食いなのだと、ここでよく分かるわけです。

 少しの身の上話や転入についての話の後、チームの話に。スペシャルウィークは「サイレンススズカさんと同じチームに入りたい」と言い出します。

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 が、オグリキャップの盛りが凄すぎて、視聴者としては話に集中できませんwww

 サイレンススズカは、グラスワンダーも所属しているチーム・リギルのメンバーであり、その入部テストが「今日」あること、またエルコンドルパサーも入部テストを受けようと思っていること、そしてチーム・リギルが現状最強チームであることが明かされます。これを聞いてスペシャルウィークも「自分も受けたい」と興奮しだし――

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――興奮のあまり水を倒してしまいます。教室の件も相まって、一途な性格ながらおっちょこちょいなスペシャルウィークのパーソナリティが、わずかな時間でしっかりと描かれます。また、大事な情報もわざとらしい説明もなく自然に出しているので、物語の進行がスムーズなのに、わかりにくさがないですね。
 ちなみに、オグリキャップはこのわずかな時間でアレをしっかり平らげています。凄すぎ。

第1話⑤チーム・リギル入部テスト

 早速入部テストを受けるスペシャルウィーク。雰囲気に圧倒されてます。そこにいるのは、フジキセキ、マルゼンスキー、タイキシャトル、テイエムオペラオー、エアグルーヴ、ナリタブライアン、ヒシアマゾン、そしてシンボリルドルフといった錚々たるメンバー。しかし、サイレンススズカの姿が見えません。

 次々とチームの志望動機を言わされる中、スペシャルウィークはただ一人、「日本一のウマ娘になりたい」という壮大過ぎる夢を語ります。それを聞いてクスクス笑い出す周りの志望生達。よくあるシーンながら、こういうのは逆に「スペシャルウィークのその後の快進撃」を予想させますよね。しかしそんな中笑わないハルウララとエルコンドルパサー、この二人だけはモブ達とは異質なものを感じさせます。

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 その様子を遠くから眺めるは、あの謎の男。何者なのでしょうか。

 入部テストのレースが開始すると、スタートのタイミングが分からず、スペシャルウィークは出遅れます。また、初めての芝コースに走り方が分からないようで、どうもイマイチな様子。エアグルーヴにも「大したことない」と切り捨てられてしまいます。
 しかし、偶然に視界の隅にサイレンススズカを捉えるや、急にテンションが上がってしまったのか、スペシャルウィークはスパートをかけ始めます。その末脚は驚異的で、一気に他のウマ娘たちをごぼう抜きにしてしまうほど。

 ですが1着はエルコンドルパサー。結局チーム・リギル入りは叶わないものの、スペシャルウィークはあくまでサイレンススズカの姿を探します。しかし、その姿は何処にも見つかりませんでした。
 その後もチーム・リギルに入りたかったとこぼしますが、あくまで「チーム・リギルに入りたかった」のではなく、「サイレンススズカと同じチームになりたかった」と言っています。サイレンススズカへの強い憧れの気持ちが、それが叶わなかったことへの残念さになっているようですね。

第1話⑥チーム・スピカ

 そんなスペシャルウィークの目に1枚の看板が飛び込んできます。

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 これを見た時の視聴者の顔は、これでしょう。

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 この時、スペシャルウィークと視聴者の多くはきっと、同じ顔をしてしまっています。正直、これを見てこのチームに入りたいと思う人はなかなかいないでしょう。それを端的に表しています。
 ですが、映画に関してよく言われる格言として「良くできた映画には1秒の無駄もない」というものがあります。アニメもまた然り、良くできたアニメには1秒の無駄もないのです。もしウマ娘アニメが駄作なら、これはただのネタ情報でしかないでしょう。しかし、緻密に計算されているのだとしたら?

 その答えはたった3秒後に分かります。

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 怪しげなサングラスとマスクの3人組。新型コロナCOVID-19なんか影も形もない時代のアニメでこんな格好をしていたら、ただただ怪しいだけですね。

 その怪しい3人組にスペシャルウィークはズタ袋を被せられ、何処かに連れ去られてしまいます。着いた先にいたのは、例の謎の男ことトレーナー、そして、

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 競馬ファンなら名前を見ただけで興奮してしまうような錚々たる面々! しかも良い笑顔! そこはさっきの怪しい看板の、チーム・スピカの部室でした。

 おまけに、なんとサイレンススズカまでそこにいるではありませんか。今日付でチーム・スピカに移籍したとのこと。全く要領を得ないスペシャルウィークに、トレーナーは問います。「日本一のウマ娘になりたいと言ったな。日本一って何だ?」
 答えられないスペシャルウィークに代わって、「GIに勝つこと」「ダービー」「有馬記念」と口々に言う部員達。サイレンススズカにも同じ問をすると、少しの間の後彼女はこう答えました。

「夢」

 日本一という、本当に抽象的なものの答えは、これ以上ないくらいに抽象的でありながら、真理とも言える、「夢」というものだと答えたのです。「見ている人に夢を与えられるような、そんなウマ娘」こそが、日本一のウマ娘だと彼女は答えたのです。
 この「ウマ娘」の部分をいろいろな言葉に差し替えてみましょう。どんなものにも当て嵌まると思いませんか?これ以上に的確な回答があるでしょうか。

 トレーナーはさらに畳み掛けます。
「お母ちゃんと約束した日本一、俺と叶えようぜ」
 なんてカッコいいんだこのトレーナー!!

 スペシャルウィークは呟きます。
「笑わないんですね、日本一って言っても……」

 そう、日本一になりたいという夢を笑わず、このトレーナーは真面目に取り合ってくれているんです。しかも「一緒に叶えよう」とまで言ってくれています。サイレンススズカがここにいることもあるでしょうが、このトレーナーの態度はさすがにスペシャルウィークの心を打ったようです。

「私、頑張りたいです、ここで!」

第1期第1話・総評

 ぶっちゃけ、典型的なスポ根ものの第1話だと思うんです。憧れの存在、強いチームへの入部が叶わず弱小チームからスタートすることなど、ありふれている展開といえばそのとおりです。この「ありふれている展開」ながら「安心できる」からこそ、それを王道と呼んだりします。ウマ娘プリティーダービーのアニメは、王道中の王道ど真ん中を遠慮なく突っ走る、そんなお話なのです。そして、捻くれた一部のクリエイター以外は皆このことを知っています。「王道にハズレ無し」と。

 物語の冒頭にして、これからの王道展開を期待させる、素晴らしい1話だったと思います。

 さあ、次は第2話について書きます。第2期までの全26話について、ゆっくりじっくり書いていきたいと思いますので、気長に読んでやってください。

SHO+XENONでした。



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