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【ストーリー論】ウマ娘のアニメ、ものすごく良くできてない?って話【第1期編⑤】

SHO+XENONです。

 前回の終わり、史実とは異なる展開を見せたアニメのストーリー。前回も指摘しましたが、この「ズレ」は人の予想を覆しより大きな心の揺さぶりを与えられる可能性が増す一方で、上手く処理しないと誰も納得できない方向に進みかねない諸刃の剣です。どのような展開で視聴者を納得させるのでしょうか? それでは見ていきましょう。

前回:

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第5R冒頭

 エルコンドルパサー、セイウンスカイ、そしてスペシャルウィークのダービー出走会見の様子。エルコンドルパサーは「快調です、怪鳥(と呼ばれている)だけに」とジョークを飛ばす余裕。セイウンスカイも「皐月賞勝ったのに3番人気」と卑下するも笑顔を見せます。そんな余裕を見せる二人に対しスペシャルウィークは……記者達の雰囲気に圧倒されるばかり。大丈夫でしょうか。

 OP曲とタイトルの後、スペシャルウィーク達チーム・スピカの面々は、神社の境内の階段をダッシュで駆け上るメニューに挑んでいました。

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 これをダッシュ……キツそうですね。他の(サイレンススズカを除く)4名はすでにバテバテです。ピッチ走法を身体に叩き込むためとはいえ、これまでにないスパルタですね。
 スペシャルウィーク、ベストタイムで走り抜けるも、まだまだと高い目標を叩きつけるトレーナー。「これが限界だ」と反論すると、「あちゃ~残念、限界超えられないようじゃ、あの二人には勝てないだろうなぁ」と挑発。やっぱりスペシャルウィークは「もう1本お願いします」と駆け下りていきました。もうスペシャルウィークの操縦法はお手の物ってことですね。

 ロード練習中の他のウマ娘を凄まじいスピードで追い抜いていくセイウンスカイ。いつもマイペースのセイウンスカイすら、「なりふり構っていられない」と全力で走り込んでいます。如何にダービーが過酷か、そしてライバルたちが如何に強力かが伺えます。皐月賞を勝ったからと言って殿様ではいられないのです。

 チーム・リギルが練習中の夕方のレース場。息があがっているタイキシャトルとエアグルーヴ。エルコンドルパサーの練習に付き合わされ、その速さに二人と言えども疲れさせられたようです。シンボリルドルフをして「よく仕上がっている」と評しました。リギルのトレーナーであるハナは、「5戦5勝、無敗でダービーを取ったら、貴方のような伝説を作るウマ娘になるかも知れない」と期待を込めます。「ダービーを勝った後の景色は感慨無量だった」「あの景色を彼女にも」と、シンボリルドルフも強い期待を持っているようです。
 エルコンドルパサーがセイウンスカイやスペシャルウィークにとってどういう存在か、視聴者目線で強く強く印象付けられるシーンとなっています。間違いなく、スペシャルウィークにとって最大の敵となるでしょう。撃破できる相手なのでしょうか?

第5R②ダービーに向けて

 場面は変わって食堂にて。件の3人が雑誌の表紙を飾っているのを見て、グラスワンダーが目を輝かせています。

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 エルコンドルパサーはカレーライス、グラスワンダーはカルボナーラパスタ、セイウンスカイはハヤシライスでも食べていたのでしょうか? スペシャルウィークはご飯ものでしょうか。キレイに食べてますね。やっぱりオグリキャップの背中も見えます。

 彼女らのテーブルに、大先輩にあたるマルゼンスキーがやってきます。彼女曰く、「ダービーは最も幸運なウマ娘が勝つ」とのこと。

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 ちなみに史実のマルゼンスキーは、1976~77年に活躍し、8戦8勝というとんでもない記録を打ち立ててしまった伝説級の名馬です。

 スペシャルウィークは突然現れたマルゼンスキーの綺麗さに見惚れてしまいます。それを尻目にエルコンドルパサーは、自動販売機でジュースを勝ったら当たりが出てもう1本貰えたラッキーさを語ります。それを羨むセイウンスカイでしたが、たまたま食べていたアイスキャンディが当たりだったようです。二人共凄い【引き】ですね。
 いよいよラッキーなことなど何もないスペシャルウィークですが、うっかり水をこぼしてしまい、マルゼンスキーのスカートを濡らしてしまいます。

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 マルゼンスキーはスペシャルウィークの肩に手を置き、「コップが割れなかっただけラッキー」と慰めます。怒ることもなく「皆の活躍を見ている」と去っていく様に、スペシャルウィークはますます「キレイで、しかもカッコいい」と見惚れてしまいます。
 でもこの時、一番ラッキーだったのはスペシャルウィークだったことには恐らく誰も気付いていません。この場にいた4人の中で、マルゼンスキーに触れることができたのはスペシャルウィークだけだったんですから!

 日直をサボってトレーニングに行こうとするダイワスカーレットと、それを咎める意外と真面目なウオッカが揃って出ていったA組の教室。そこでトウカイテイオーがメジロマックイーンに話しかけます。メジロマックイーンはチーム選びの真っ最中。

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 こうして見ると結構色んなチームがあるんですね。このページを開いているということは、もしかしたら一番興味があるのはやっぱりリギルだったのかも知れませんね。

 そんなメジロマックイーンに、かなり渋々な表情ながらも、トウカイテイオーはチーム・リギルへの加入を持ちかけます。

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 この表情。会話もお互い乗り気ではないのがありありです。

「あなた、自分が何を言ってるか分かってますの?」
「ボクだってライバルを同じチームに入れたくはないんだけど、ゴールドシップが『メジロマックイーン連れてこないとパイルドライバーだ』って言うからさ……」
「ゴ……ゴールドシップ……!?」

 心底嫌そうです。メジロマックイーンはゴールドシップに一方的に絡まれているようです。

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例のからし入りシークレット味たい焼きを食べさせられるわ(そして何故か返り討ちにしているわ)、

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図書室では消しゴムを飛ばされるわ(そして卓球のラケットで打ち返して目に直撃させて悶絶させるわ)、

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食堂ではおかずのコロッケ?を横取りしようとするわ(そして取り合いになった勢いで箸が目に刺さって勝手に悶絶しだすわ)……。

 なんだか気に入られてしまったようです。トウカイテイオーも「ボクとカイチョーみたいな感じなのかなぁ?」と感想を述べています。
 何が「みたいな感じ」なのかというと、史実においてトウカイテイオーはシンボリルドルフの息子であるように、実はゴールドシップの母方の祖父にあたるのがメジロマックイーンです。史実において血縁関係にあるウマ娘は、何か運命レベルで惹かれる何かがあるようです。

 場面はまた変わって夕方の例の神社の境内。死屍累々です。

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 そんな中、スペシャルウィークは「もう1本」とサイレンススズカに申し出ますが、「無理はダメよ」と優しく諭します。スペシャルウィークもこれを素直に受けます。
 日が沈み夜の帳が下りるのを眺めながら、サイレンススズカは自身のダービーの経験について語ります。サイレンススズカはダービーは9着でした。距離も合っていなかったし、上手く限界を引き出せなかったと言います。
「限界はどうしたら超えられるんでしょうか?」と訊くスペシャルウィークに、サイレンススズカは「ゴールに大好きなニンジンを置いておいたら?」と冗談で返します。冗談を言えるような関係になった、それくらい関係性が深まったことを示していますね。
 スペシャルウィークは、日本一のウマ娘になる夢を、ダービーで勝つことで叶えたいと希望を新たにします。サイレンススズカの方も、スピカに入ったことで新たな夢を見始めたようです。ローテーションの後、「その後は」と口を開くも、「まだ内緒」と教えてくれません。教えて欲しいと食い下がるスペシャルウィークに対しての答えは、「ダービーに勝ったら」でした。

 一方リギルでは、エルコンドルパサーが作戦を伝えられます。スペシャルウィークに注意するよう言われたエルコンドルパサーですが、「自分の感覚を信じる」と返します。努力の成果が出せれば負けるはずがないとまで言われますが、果たして?

 いつもの神社の境内に、メジロマックイーンがトウカイテイオーに連れられてやってきました。トレーナーが話したいとでも言って連れてきたのかも知れませんが、そこにはトレーナーはいません。「あなたの顔を立ててあげたのに……」と言うメジロマックイーンですが、

「さすがはメジロ家の令嬢!」

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 いつもの脚フェチを炸裂させ、例のごとく蹴飛ばされました。

 そこに入部届を持ったゴールドシップ登場。「早速ここにサインを」とそれを差し出しますが、「見学してから」と明らかに前向きではない、半ば拒絶反応を見せます。
「でも……私はお前と……走りたくて……ううう……」と明らかな嘘泣きを始めます。エーン。゚(*ノωノ)゚。チラッ(*ノω゚)ゝそれを見たメジロマックイーンは……「別に入らないと言っているわけではないのですから!」と明らかに慌てだしています。「マックイーンって……」「案外単純だったのね」とはウオッカとダイワスカーレットの評。

 同じ境内で、いつもの階段上り。今度はサイレンススズカも「私の背中を追い越してみて」と言って並走してくれます。
 スタートするや、サイレンススズカは途轍もない速さでスペシャルウィークの前を走り出します。しかしスペシャルウィークの方も、サイレンススズカと一緒に走りたい、ダービーに勝ちたい想いで加速。結果的には目標であったタイムを切ることに成功します。まさかの一発クリアに、トレーナーは「あちゃ~、最初に(ストップウォッチを)押すのを忘れてた」と言ってごまかすのでした。
 それを見学するメジロマックイーンの後ろで、ずっと他の4名は、茂みで何かを探していました。何をしているのでしょう?

第5R③ダービー当日

 東京の町並みは、すっかりダービー一色に染まっています。ついにダービー当日。15万人を超える観衆が詰めかけています。今日の解説は、

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武豊やんけ!!!!!

 姿を現したスペシャルウィークですが、緊張でガチガチ。限界を超える力が出せるか心配だと零す彼女に、サイレンススズカは優しく語りかけます。

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「あれだけ坂の練習したんだもの。後は思いっきり、楽しんで」

 そこでウオッカが何かを渡してきます。それに目をやると、

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 それは四つ葉のクローバーでした。四つ葉のクローバーは幸運の証とされています。あの時ゴソゴソと何かを探していたのはこれだったのです。なかなか見つからなかった四つ葉のクローバーを探し当てたのは、なんとメジロマックイーンでした。皆に支えられ、幸運も味方につけたスペシャルウィークは、笑顔でターフに向かっていきました。

 キングヘイロー、セイウンスカイ、そしてスペシャルウィーク……。続々と役者が揃っていきます。その最後を飾るのは、「王者になるウマ娘に甘いことは必要ない。絶対を見せろ」とシンボリルドルフに発破をかけられた、エルコンドルパサー。この中で誰かが勝ち、他が負けます。誰が勝つのでしょうか。

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 ファンファーレが鳴り響き、じっとテレビで見つめるお母ちゃん。そしてゲートが開き、ついにダービーが始まります!
 まずはキングヘイローとセイウンスカイが先行します。スペシャルウィークはスリップストリームを活かして中盤に。そしてさらに後方にエルコンドルパサー。この様子を見て、リギルのメンバーは「キングヘイローが冷静さを欠いている」と分析します。
 第4コーナーを回り、「どうせ後ろから仕掛けてくるのだから、早めに」とセイウンスカイが仕掛けてきます。そして、早くもキングヘイローを抜き去ってトップに立ちます。

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 しかし、それを許さず後方から一気に追い上げる影がありました。スペシャルウィークです。坂が苦手なはずとセイウンスカイはタカを括っていましたが、ここで練習の成果を見せ、セイウンスカイとの差をどんどん詰めていきます。そして坂の途中で一気に抜き去ってトップに立ちます。

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 そのままトップでゴールインするか? そうは問屋が卸しませんでした。そのスペシャルウィークをさらに上回るスピードで内側から一気に迫ってきたのは、無敗の怪鳥エルコンドルパサー。セイウンスカイすら差し切ったスペシャルウィークをさらに差しきらんとしてきます。そのまま、スペシャルウィークを追い越して先頭に立ちました。

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 背中を追うスペシャルウィーク。もう後はありません。ラスト50m、ここで限界を超えなければ、ダービーの栄冠はもう自分のものになることはありません。その時、サイレンススズカの声が聞こえました。

「スペちゃああああん!!!」

 その声が、スペシャルウィークの限界の壁を打ち壊しました。なんとそこから巻き返し始めたのです。

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 視聴者はここで初めて、エルコンドルパサーの笑顔が消える瞬間を目撃します。グラスワンダーの肘鉄でも喰らわない限りいつも笑顔だったエルコンドルパサーが、初めて脅威を感じて顔を引き攣らせました。意地と意地、力と力がぶつかり合い、二つの影が同時にゴール板の前を通過しました。スペシャルウィークはゴールを通過するなりズッコケてしまい、エルコンドルパサーもへたり込んでしまいました。それほど二人共力を出し切ったレースだったのです。

 掲示板に映し出されたのは、「写真判定」の文字。つまり、どちらが先にゴールしたのかを写真で精査しなければわからないほどの同時だったのです。全力を出し切って倒れ込んだままのスペシャルウィークに、思わずサイレンススズカが駆け寄ります。「私、限界超えました……。」サイレンススズカの腕の中から力ない声が聞こえました。「私にとってのニンジンは、スピカの皆さんでした。」チーム・メイト達の声援と期待が、スペシャルウィークをここまで強くしたのです。

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 固唾を呑んで見守っていた観客たちがどよめき始めました。確定として表示された結果は、

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「同着」、つまり写真判定ですら決着をつけることができず、二人共が一着ということになったのです。エルコンドルパサーとスペシャルウィーク、同時に二人のダービー覇者が生まれたのでした。

「スペちゃん、ありがとう」

 エルコンドルパサーが話しかけます。

「私、今まででいっちばん、楽しいレースでした!」

「私も! エルちゃん、ありがとう!」

 最高のレースを制したスペシャルウィークとエルコンドルパサー、二人の覇者が熱い抱擁を交わしたところで、今回はここまで。

第5R総評

 王道展開に不可欠な、「主人公の限界突破、そしてさらなる大きな勝利」の回でした。しかも相手はこれまでよりさらに多く、さらに強大な中で、スペシャルウィークは自分の限界を超え、映えある勝利を掴んだのです。
 ちなみに、この結果は史実の通りで、史実のダービーの覇者になったのはスペシャルウィークでした。ここに至るまでの物語をちゃんと補完し、擬人化の強みを活かして構成した制作陣はさすがだと思いました。ちなみに、史実においてスペシャルウィークの鞍上にあったのは、解説で出演していた武豊氏でした。

 さて、とはいえ、史実と明らかに異なる部分もあります。それは、史実においては出走していないエルコンドルパサーの扱いについてです。前回も冒頭でも指摘した通り、史実においてのダービー覇者はスペシャルウィークである以上、エルコンドルパサーを勝利させればスペシャルウィークを貶すことになり、敗北させればエルコンドルパサーに疵をつけます。この非常に難しい諸刃の剣を抜き、結果として描き出したのは「同着による二人の同時勝利」の形でした。
 ある意味では究極系とも言えるご都合主義です。そのような批判もあったのではないかと想像します。私もそう思わないこともないです。
 ですが、エルコンドルパサーを出走させる形にしたことが、物語をより盛り上げたことは事実ですし、またこれ以外にスペシャルウィークとエルコンドルパサー双方を立てる方法はなかったと思います。そもそもこのアニメは史実を元にしたフィクションなのですから、完全に史実の通りである必要もありません。が、その上で双方をちゃんと立てたのですから、これ以上の良いシナリオは少なくとも私には思いつきません。

 もし同着という「ご都合主義展開」が現実にありえないのであれば文句の言いようもあるのですが、例えば1988年の阪神大賞典におけるダイナカーペンターとタマモクロス、2010年のオークスにおけるサンテミリオンとアパパネなど実例があるのですから、この世界のこの時のダービーでスペシャルウィークとエルコンドルパサーが同着になるのがおかしいと言えないのです。
 ちなみにこの同着ですが、基本的にはウオッカとダイワスカーレットが2008年の天皇賞秋において、たったの2cm差でウオッカが勝利したこともあり、2cm差であれば勝敗は付くようなのです。勝利の神様が勝敗をつけるのを惜しんで、本当にcm単位でも差がつかないくらいに双方を勝たせるようなことがあっても、それはそれで良いことではないでしょうか。

 というわけで、私はこの展開、結果には満足しています。良い形の決着になったなと思っています。

 それでは明日、第6Rでまたお会いしましょう。SHO+XENONでした。


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