見出し画像

朝から卓球をして

最近引っ越しました。
これまでは駅近の市街地に暮らすことが多かったですが、今住んでいる場所は「ザ・郊外」みたいなところです。
休日に近所のイオンモールにふらっと出掛けてみると、元気な中学生がフードコートでTiktokを撮っていたり、お母さんが泣き叫ぶ子どもをアンパンマン1つで見事に手なずけていたり、お父さんが安売りしているミネラルウォーターの束を持たされていたりと、色んな人たちでものすごくごった返しています。お昼ご飯を食べるにも、新装開店した3coinsに入るにも、トイレに行くにも、とにかく行列、行列。
実は僕は、こんなにごった返しているイオンにはあまり慣れていません。

中学2年生の冬。
僕は何かと理由を付けてよく学校をサボっていました。
当時の記憶はとても断片的なのですが、サボるといっても親の目の届かないようなサボり方をしていた時期もあったし、どういう合意形成があったか定かではありませんが親公認でサボる日もありました。
後者のケースでは、母の買い物に荷物持ちとして同行することがよくありました。車移動なので別に荷物持ちとか要らないんですけど。

買い物スポットNo.1は、やっぱりその当時からイオンです。
平日昼間のイオンは、小さい子どもを連れたお母さんなどがまばらにいる程度で、フードコートも随分と空いています。友達と近所の西友に行けば300円のうどんでしのいだりする訳ですが、母と一緒に行くとケンタッキーの1200円くらいする何とかセットみたいなのを食べられるので、何となくボーナスタイムみたいな気分になれます。

食べ終わったらいつも2人で100円ショップに寄ります。
100均では母の財布のひもが緩くなりがちなので、ルービックキューブの偽物みたいなパズルとか、コマが小さすぎて爪を伸ばさないと掴めないボードゲームとか、そういう「どうせすぐ飽きるけど家にいてもやることなくて暇だからとりあえず買ってもらっちゃう」系の買い物をよくしていました。

ある日、その流れで卓球セットみたいなものを買ってもらいました。手のひらより小さくまともに持つことすら難しいラケットが2つ、弾みづらいピンポン玉が1つ、エアコンの"強"で倒れるしょぼい柵みたいなのが1つ。さすがの100均クオリティという逸品です。
買ったところでやる相手がいる訳でもないし、本当によくわからない買い物です。

僕だってずっと学校をサボっていて良いと思っている訳ではありません。そろそろテストもあるし、出席日数みたいなのが何かしらに多分響くんでしょみたいなことも当然知っています。今日は体育もないし、まあいっちょ行ってやるかっていう気持ちになります。
でも、なぜか玄関を出れないんですよね。というか登校の流れに元気に合流するのがしんどいんです。誰とも目を合わせたくないし、家という安心安全な空間から一歩外に出たら途端に"元気な社会"のうねりに飲み込まれなきゃいけないというギャップがもうしんどい。
かといって5分遅れくらいで教室に入ると目立つ。中学2年生の僕にとって、目立つ、周囲からの奇異の目にさらされるなんてことはもう死ぬより嫌なことな訳です。
だから本当は1時間目の終わりくらいの時間に家を出て、通学路で誰にも会わないまましれっと学校に着いて、しれっと席に座って、しれっと2時間目から授業を受ける。これが僕の理想の1日です。
それでちょっと待機して、1時間目の終わりまであと10分、あと5分とタイムリミットが近づいてくると、ものすごい面倒くささの波が押し寄せてきます。どうせ今日はもう遅刻確定な訳で、ここからわざわざ学校に行ってなんか変に目立つくらいだったら今日はもう行かなくていいんじゃないかと思い始めます。そうしているうちに自宅にて2時間目が始まり、母とイオンに行く流れになり、ケンタッキーでツイスターとオリジナルチキン3ピースのセットをもりもり食べる。こんな黄金パターンが繰り返されていきます。

母は息子の生態をよくわかっているようでした。
ある日、いつものように1時間目の終わり際をだらだら待っていたら、母が「卓球しよう!」と言ってきました。
卓球するって、100均で買ったあのガラクタを振り回すことですか。全然気乗りしない僕にあえて気づかないように母はいそいそと卓球セットを持ってきます。

わざわざダイニングテーブルの位置をずらして、しょぼい仕切りを真ん中に置いて、卓球をします。運動神経の悪さがしっかり遺伝しているようで、全然続かないラリー。ラケットが小さすぎてサーブも空振りする始末。
段々慣れて打ち返せるようになってくると、こんなにしょぼい卓球セットでもなかなか白熱して楽しくなってきます。

あと1分で1時間目が終わる。もう行かなきゃ。
そこで母が笑っちゃうくらいすごいスピードでスマッシュを打ってきました。当然打ち返せず、なんかキリの良い雰囲気を出して「よっしゃー!学校行ってこーい!」と言う母。
母に一杯食わされた形で、僕はその日学校へちゃんと(2時間目から)登校しました。

それからしばらく、登校時間直前に母と卓球をするのが日課になっていました。僕は3人兄妹の長男で、小学校にしっかり通う妹が2人いたはずなんですが、中学校の朝の記憶の中には僕と母の2人、そしてしょぼい卓球セットしか映っていません。
僕も段々と「ルール」が掴めてきたので、「今のは球が手に当たったから無し!」「柵が倒れたからやり直し!」などと何かと理由を付けて決着の時を引き延ばそうとします。
それでもだいたい最後は、母が運動神経悪いなりにバッチリ決めたスマッシュの勢いそのままにかばんと弁当を持たされて家から放り出されていました。

リディフェスのチケット、買って下さい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?