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リディフェスのチケット、買わなくても良いです

幕張で毎年開催されている、日本最大級の都市型音楽フェス「サマーソニック」。
深夜帯には幕張メッセがデッカいクラブみたいな仕立てになって、「ソニックマニア」というナイトイベントが催されています。夜20時スタートで、終わるのは始発がやってくる朝の5時。場内ではレッドブルウォッカが飛ぶように売れ、クラブ系ミュージックの最新シーンを背負っているアーティストたちがあちこちで爆音で曲をかけ続ける猥雑な空間です。

僕が一度ソニックマニアに行った時には、メインディッシュとしてマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(マイブラ)が登場しました。
マイブラは、シューゲイザーというジャンルの大家です。シューゲイザーというのは字そのまま、「靴(shoe)」を「見る(gaze)」、つまり常に下を向いて長い前髪で目を隠しながらギターを爆音で鳴らす、というジャンルです。下を向いているかどうかと音の感じに直接関係はないはずなのですが、曲を聴けば「ああ、これはシューゲイザーだね」とわかるような、ダウナーだけど心が湧き立つような音の特徴があります。
特にマイブラの爆音っぷりは異常で、彼らの単独公演では観客に耳栓が配られるほどです。1997年に突然解散して、2007年に突然再結成するなどファン泣かせの行動を続けていて、その当時も何年ぶりかの貴重な日本公演だったと聞きます。

僕はマイブラそんなに好きという訳でもないのですが、やっぱり生で聴かされてしまうと心を撃ち抜いてくる力がミュージシャンにはある。
レッドブルウォッカを7杯くらい飲んでやや朦朧としながら、始発に向かう混雑を嫌う僕は終演を待たず一足先に、始発の海浜幕張駅へ向かっていました。

その道中で、ひょろっとした2人の青年が朝の5時からチラシ配りをしています。マイブラのケヴィン・シールズそっくりなボサボサのロングヘア―で、やぼったい服を着て、「シューゲイザーバンドやってま~す」と気合の無い声でよれたチラシを配ってる。
僕がソニックマニアで最も心が動いた瞬間です。
この人たち、時系列的にはマイブラ観ていないんです。ちょっと早めに抜け出した僕より先にチラシを配り始めている。生のマイブラを観れる貴重なチャンスに、どう考えてもマイブラに影響されて人生を決めたであろうこの人たちは、自分が観客でいることを捨てて、シューゲイザー好きである可能性が高い始発客にアピールすることに賭けている。
声には全く張りがありませんが、あまりにも気合が入ったその行動。マイブラが何の曲を演奏していたかはもう完全に忘れていますが、この名もなきシューゲイザーバンドの姿は今も心に焼き付いています。
誰もチラシ受け取ってないし、僕も受け取ってないんですけど。2人は虚空に向かってひたすらチラシを差し出しつづけていました。


リディラバは「社会の無関心の打破」というミッションを掲げています。
平たく言えば、分断が加速するこの世界で、少しでも自分の周囲、そしてその先にいる誰かと共鳴しながら小さな一歩を踏み出せる人・組織を増やすことが目的です。
全然平たく言えなかったので言い直すと、社会問題に関心を持っている人を増やすことが目的です。

僕は3年半もこの世界にいたのでマヒし始めていますが、冷静に考えると「社会問題に関心がある!」だなんて、10年前の自分は胸を張って他人に言えたか?といえば言えないです。というか5年前ですら同じです。別に関心なんかなかった。
今はさすがにまあ「関心がない」とは言えないですが、じゃあ「世の中の人みんなに関心を持って行動してほしいか?」と聞かれたら、Yesとは言い難いものがあります。

もちろん、僕がリディラバを通して出会ってきた人たちの生き様を、1人でももっと多くの人に知って欲しいという気持ちはあります。
でも、リディラバが望むような世界にみんなを連れて行きたい、気づかせたい、みたいな気持ちでは全くないんですよね。
誰もが守りたいもの、大切にしたいことがあって、それが必ずしも「社会」とか「地域」とか「環境」みたいな、誰かと共鳴し合える大きな言葉で言い表せるとは限らない。
父は僕がリディラバに転職して3年くらい経ったある日に、「"社会全般のことにうつつを抜かす"のも良いが、自分や家族の人生を大切にしてくれ」と言いました。父にとっては目の前の家族を守ることが何よりも大切で、そのために不本意な転職・不本意な仕事に身を置くこともいとわなかった。そんな父に「いや、お父さんこそもっと社会で起きている問題に関心持ってくれよ」なんて全然思いません。

リディフェス来てくださいっていう投稿をしつこく何日か続けてきました。
ささやかに反応してくれる人、ニヤニヤしながら応援してくれる人、根負けしてチケットを買ってくれる人。全部ありがたいです。
でも、リディフェスに興味持ったり来てくれたりしなくたって、別に僕は良いと思ってます。
この言葉は、僕がこれだけリディフェスについて騒いでるnoteを開かないと届かないので、本当に届けたいはずの名も無き誰かには伝えられませんが、リディフェス来なくたって良いんです。いいね!も押さなくて良いんです。


あのシューゲイザーバンドが今どこで何をしているかはわかりません。僕は彼らに"いいね!"も残さなかったし、もちろん公演にも行かなかった。彼らからすれば「あれだけ頑張ったのに関心を持ってくれなかった」多くの人間の1人です。
でも僕は、あの姿を目撃できてとても良かったと今でも思ってます。だから今、僕も虚空に向かってチラシを配り続けています。
色んな意味で、それで良いんだと思います。


リディフェスのチケット、買って下さい。
買わなくても良いです。


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