フェリーに乗っていつも思い出すこと

早起きして電車に乗り、駅に着いて猛ダッシュ、朝食を買い込み、チケットを買ってフェリーに乗り込む。

タンタンタンと客室デッキへの階段を登り始めたところで、日常に船があるっていいな、とキュンとくる。

お客さんはまばらで、一人で二席をのんびり使いながらコンビニのコーヒーを飲む。

これまでに乗ってきた色々な船を思い出す。いつの、っていうぐらい古いゲーム機があってタバコ臭い、昔のゲーセンのようなフェリーや、風呂までついてる大きな東京行きのフェリー。そして必ず思い出すことにしているのが、スペイン・アルヘシラスからモロッコ・タンジェに向かうフェリー。

ジブラルタル、と保険会社のCMでしか聞いたことなかった場所は、波風の激しい海峡に厳しく聳える岩だった。小さな飛行機が離着していたように思う。

デッキの上はものすごい強風で、毛根ごと毛が飛んでいくのではと思ったほどだった。一緒にいた友人が「あ!魚」というので海面を見ると、飛び跳ねるイルカが何頭もいた。野生のイルカを見たのは実はそれが初めてで、シミジミと「遠くに来たな」と思ったのだった。

船室はあまりにも横揺れが激しくてまっすぐ歩けないほどだった。トイレや洗面台はなかなか大変なことになっていて、船旅に慣れていないのであろう女性たちが何人もうずくまっていた。

フェリーに乗る女性たちはみなグロッキーで、スタスタ歩いているのは自分たちだけだった、という映画のワンシーンのような記憶が焼き付いているのだが、これはたぶん自分で脚色しているのだと思う。

イミグレは海上で行われたので、EUからの出国スタンプがフェリーの形だったのがささやかに嬉しかった。

アルヘシラスの港には当然ながらコンビニなどなく、近くのこぢんまりとした市場でフルーツなどを少し買った(ような気がする)。港にも、胸焼けするようなスナックが少しあったか。

とにかくこうして、のまっとした形の島々を眺めながら、そこそこ美味しいコーヒーを飲み穏やかな海を渡るとき、ジブラルタル海峡をまたどうしても渡りたくなるのだ。

でも同時に、もう、22歳の私が渡ったときのようには二度とあそこを渡ることができないだろうなと思うので、再現不可能なひとときを、こうして何度も何度も思い出す。