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娘の前で泣く

一歳の娘が、1人で機嫌よく遊んでいる。
そんなときは私も新聞など読んだりする。

パリパリ…ぱり…ペリペリッ…

んん?何の音…?台所からだな。卵のケースか何か、始末し忘れたかな?

ふと新聞から目を離して、音がする方向を見る。そこでは娘が何かを一心に噛んでいた。

んっ?!もしやそれは、私が大事にお取り置きしている、ミニあんパン5個入りの袋では?!ちょっと、やめて!そんな風に袋の上から噛んだらパンがぐちゃぐちゃになる~!!

やめて、やめて~!と言いながらそっちへ駆け出す。

がつッ…っ!

「はうっ!!」

あと一歩であんパンを奪取出来るところまで来て、右足小指に激痛が走った。なに?何なんだ??

振り返りつつ下を見ると、そこにはなぜか、ひっくり返った掃除機があった。どうしてお前さん、そんなところにおありだい?!

ああ、娘だよ娘。私は一瞬で悟った。彼女は掃除機が大好きなのだ。
起動しているときは後ろに回って排気を浴びるのが大好きだし、そうでないときは押し車として、はたまたひっくり返して車輪を手で回してと、娘にとって掃除機は、多彩な遊びができる楽しいおもちゃだ。

「痛い、痛いよお~っ!」

私はあまりの痛さにその場に座り込み、足をなでさすりながら大泣きした。

「え~ん、痛いよ~っ」
バカみたいだけど、痛いものは痛い。

「ふえ~ん、痛い~」
娘が私を不思議そうに見ている。もうあんパンは手放した。

「痛い、痛い~」
娘がにっこり微笑んでこっちにやってきた。もしや慰めてくれる?

「痛いよ~…ん?」
娘は、微笑みながら寄ってきて、私の鼻の穴に自分の指を突っ込んでキャハハ、と笑った。

私は素早くその手を払いのけ、その場でもうしばらく痛い痛いと喚き散らした。その間に娘はどこかへ行ってしまい、目の前にはあんパンがぽつんと残されていた。

泣きながら、ああ、あんパンは守りきれたんだわ、と思った。

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