条例における罰則規定(S37/5/30)

【概要】

大阪市の条例「街路等における売春勧誘行為等の取締条例」2条1項に定める罰則規定が憲法31条に違反しないのか争われた事例。正確には、同条の罰則規定を認めた地方自治法14条の違憲性が争われた。本件は3人の裁判官の補足意見が付いた判決文となったが、結果的には内容が相当程度に具体的であることを以て、本件は合憲という判断となった。

【条文の整理】


条文を整理しよう。まず、日本国憲法には、
第三十一条 
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
とあり、法律で定めない限り、刑罰は許されないとある。いわゆる「罪刑法定主義」と呼ばれるものである。
次に、
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
(略)
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
但書が、憲法31条の例外規定となっており、政令には特別な法律の委任が必要となる。この「委任」は上記罪刑法定主義の例外規定を定めるものであるから、一般的・包括的な委任は許されず、個別的・限定的な委任であることが必要である。

第二に、今回のターゲットとなった地方自治法には、
第十四条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
○2 普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
○3 普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮こ 、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

とあり、この条文が「授権の範囲が不特定かつ抽象的で具体的に特定されていない結果一般に条例でいかなる事項についても罰則を付すことが可能となり憲法31条に違反する」と訴えたものである。

【判決】


最高裁判例は以下の様に示した。憲法73条についても触れつつ、公選の議員によって立法がなされる条例は行政府が定める政令とは質が異なるため、内容が相当程度に具体的なものであれば足りるという判断である。入江裁判官の補足意見においても「条例への委任の仕方と、政令等行政府のみで制定する法令への委任の仕方との間に若干差異があってもよいということである。すなわち、条例は、公選による議員をもって組織する地方議会の議決を経た地方公共団体の民主的な自主立法である点において、条例への罰則の委任の仕方は、政令等行政府のみで制定する法令に対する委任の場合に比較して、より緩やかなものであってもよいと思うのである」と書かれている。

(判決本文)
憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは憲法73条6号但書によっても明らかである。 法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。ところで、地方自治法2条に規定された事項のうちで、本件に関係のあるのは3項7号及び1号に挙げられた事項であるが、これらの事項は相当に具体的な内容のものであるし、同法14条5項による罰則の範囲も限定されている。しかも、条例は、法律以下の法令といっても、上述のように、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておれば足りると解するのが正当である。そうしてみれば、地方自治法2条3項7号及び1号のように相当に具体的な内容の事項につき、同法14条5項のように限定された刑罰の範囲内において、条例をもって罰則を定めることができるとしたのは、憲法31条の意味において法律の定める手続によって刑罰を科するものということができるのであって、所論のように同条に違反するとはいえない。

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