ふと、心に静かな蒼き炎を飼う日がある
本を読んでいるとき、友達と話しているとき、はたまた電車でぼぉっとしているとき。
静かに、そして迅速に心に炎が灯る瞬間がある。わたしの場合は、決まってある作品を思い出す時である。どうしようもなく愛おしくて、切なくて、物悲しい炎が粛々と燃え続ける。とてもとても小さな炎が。
わたしはこの現象の名前を知らない。ただ居ても立っても居られない、迷子の子供のように安定しない気持ちになる。直ぐに愛おしい何かを置いてきてしまったような、そんな焦燥感に駆られるけれど、振り向いたら思い出がホロホロと崩れてゆく気もしている。だから決して掴みにはいかない。炎が小さく小さくなるまで、ずっと一人で孤独に耐える。次第に蒼き炎は心に溶けてゆくから、わたしは私に還る。
誰にしも、こんなガラス細工やレースのような繊細な気持ちを抱えた経験があると思う。そして、誰もがこの感覚の名前がわからない。でも、これはあなただけの感情なんだ。名前なんて他人のためにあるものなのだから、それでいいと思う。死ぬまで寄り添う、貴方だけの感覚。
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