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ダークソウルと金枝 9

前回では、この『ダークソウル』における”金枝”や不死の例をあげ、”薪の王”のそれが篝火ではないかという説を述べました。

しかし『ダークソウル』世界においてはまだまだ謎は多く、とくに人物としてのグウィン自身について、その謎ははっきりと多く残されています。

彼はなぜ火を継いだのか、なぜ人を恐れたのか、なぜその人の王やシースにソウルを分けたのか……

この先の記事でもわからないことは多いですが、今回はまず彼の竜狩りについて考察してみたいと思います。前回言った、この世界最古の不死殺しについてです。

古竜との闘い、あるいは狩り

OPの神話には”戦いを挑んだ”とありますが、その物語は竜狩りとも呼ばれます。初めはおそらく、あのような勇猛な戦があったのでしょうが、グウィンが雷の矢を騎士たちに授け、シースが原始結晶を奪ったことで、優勢は決したのでしょう。その後多くの戦士たちが竜を狩り、その中では彼らに同情心や友情を持つ者もいたようです。

しかし古い竜たちは紛れもなく不死であり、朽ちぬ古龍とも呼ばれます。
なぜ彼らは、その不死のウロコを砕け、彼らの生命をうばうことができたのでしょう。

まず一つの要因として、シースが原始結晶を奪ったことが挙げられます。おそらくこれは竜たちの魂を隠しておくための何かで、これがあるために彼らは完全な不死となったのでしょう。

しかし彼らがシースのような状態だったとして、彼らにはさらにウロコがあります。そのウロコもまた”不死のウロコ”と呼ばれ、これもシースはもとめていました。

このウロコはグウィンの雷で砕けたとは言いますが、それはなぜだったのでしょうか。不死のウロコとは名ばかりで、普通の堅いウロコだったのか。原始結晶を奪われたら、ウロコの力さえも奪われたのか。

しかし私はこう仮定します。不死のウロコを砕けたのは、太陽の光の王グウィンが、そのための”金枝”を得ていたからです。

彼が竜のウロコを貫けたのは、つまりこれが不死の竜たちの”金枝”だったからではないだろうか。
もはやSHAREボタン連打を気にしてる場合ではない、この考察も佳境に入ったのだ。

雷、古竜由来説

もしも竜の魂の力が雷だったのなら、それによって彼らが傷つくというのは、『金枝篇』の説では当然です。同種のものだからそれを傷つけられる、つまり作用できる力を強く持つわけですから。

しかしダークソウルをやってきた人にとって、これはちょっと受け入れがたい説かもしれません。竜にとって雷が弱点だというのは事実なのですが、それは相性の問題であって、この同質性のメカニズムが作用している証拠はないのです。

今回はそれぞれ検証し、ある程度頷けるような説を考えていきます。

竜の息

基本的に竜たちは”飛竜の谷”の雷の竜を除き、炎か闇あるいは毒のようなものを吐きます。竜の力が雷だとしたら、なぜ多くの竜は雷を吐かないのか理由付けが必要となるでしょう。

しかし、ここで毒や闇のブレスが、竜本来の力ではないことは分かります。そのような属性のブレスを吐く竜は、その闇を喰らっていた、毒を身に受けていたという由来を持ち、後天的な要因でその属性のブレスを吐くようになったことは明らかです。

このようにして、火の時代になったから、多くの竜も火を吐くようになった、というのが今回私の提示したい仮説ですが、単にそのような論法ではみなさんは納得しないでしょう。

しかしこの仮説にひとつ有利な論拠をしめしますと、古の竜狩りの鎧、オーンスタインの鎧や溶鉄の竜狩りの鎧は、雷属性に強い耐性を持ちます。彼らの武器が雷を帯びるのはわかりますが、その鎧まで雷に耐性をもつのはなぜでしょうか。それは彼らが、雷を力とする相手に立ち向かっていた、一つの証左ではないでしょうか。

樹木と嵐と雷と

前回ダークソウルにおける”金枝”の例として、巨人ヨームとストームルーラーの例を挙げました。彼らの力のつながりは直接には不明ですが、巨人と大樹、”嵐のみが大樹を倒す”というメッセージとの連想で、彼らになにか繋がりがある事はわかるでしょう。

しかしこのストームルーラーは、その戦技のエフェクトが、竜の尾からとれるドラゴンウェポンの両手持ち強攻撃に似ています。大樹と竜とは灰の時代からいた存在という幼馴染の関係で、こちらもなにかしらの繋がりがあるのでしょう。この大樹の力と雷属性の関係を示すことが出来れば、竜と雷との関係もなんとなく強化されるでしょう。

まずいきなりですが、この『ダークソウル』の開発会社フロムソフトウェアの他作品、「SEKIRO」のボス”桜竜”を思い浮かべてください。



……つまり、そういう事です。

まあ、この『ダークソウル』の世界で探そうと思うと根拠が薄いのですが、まず木から生えるキノコから、雷属性のエンチャントアイテムである、黄金松脂がとれます。また雷派生の武器を作れる巨人鍛冶師のもつ、巨人鍛冶の木槌も雷属性を持ちます。

神話でいうと先の記事で紹介したオークの木はヨーロッパでは雷と関係づけられ、雷神ゼウスの聖樹でもあります。また、おそらく「SEKIRO」で意識されるように、東洋の五行思想では雷や雨の縦に力を伝えるものは木行で、樹木と雷は同根の力と見なされます。

現実にも、雷は雲の中で起きる静電気のような現象で、嵐とは切っても切れない関係です。大樹、嵐、ドラゴンウェポン、竜というような緩いつながりは、認めてもよいのではないでしょうか。

雷とともに、嵐の力の片鱗も見せる、竜狩りの鎧。
ボス”竜狩りの鎧”は体力の1/3ほどを削るとこのように力を開放するが、その力には強力な雷のほかに、竜の骨からコアが作られた、センの古城のアイアンゴーレムのような風の刃も含まれる。嵐と雷とは切っても切れない繋がりがある。

オーンスタイン、スモウ属性象徴説

オーンスタインとスモウは『ダークソウル』のなかでも特に印象的なボスですが、彼らの存在やその配置などが、結晶と雷の力を象徴しているのではないかという説です。

少しわかりづらいかもしれませんが、読んでくださると助かります。

まず、アノールロンドの篝火から、まっすぐ出て右側へと進むとオーンスタインの像があります。その前には二人の巨人騎士。そこから脇へそれる出口にもう一人巨人騎士がいます。この像と巨人騎士の関係は対称になっていて、逆側のスモウの像の周りでも同じです。

オーンスタインの像のそばには宝箱が一つあり、その中にはデーモンの楔。特別なソウルによって鍛えられた、ボス由来の武器の強化に使います。

またスモウの像のそばには宝箱が二つあって、一つは特別な武器を強化するための光る楔石。もう一つの宝箱はミミックになっていて、結晶のハルバードをドロップします。

両者の側から行ける次のマップも対称的で、オーンスタイン側はこのアノールロンドに来るための、センの古城。全体的に雷を打ってくる敵が多く、隠されたミミックは雷派生のスピアをドロップします。

スモウの側へ抜けていくと、シースがウロコの研究行っていた公爵の書庫があり、そこの敵全体に見られるモチーフは、結晶です。

この通り多くの点で対照的に作られている、像の配置とその周辺ですが、この二人のペアになったボスも対称的に作られ、そのソウル派生武器は一方が雷属性の武器、また一方は単に物理攻撃力が高く能力補正値が低い設定になっています。

しかしこのスモウの側の装備は、フラムトに頼みソウルに変換してもらおうとすると、たったの1ソウルにしかなりません。これは結晶派生武器の特徴で、シースの尾からとれる月光剣もこのとおりです。

なぜ今回このようにオーンスタインとスモウ、雷と結晶を比較するのかというと、この雷と結晶の力というのが同根のもので、ともに竜の力ではないかというのが私の仮説だからです。

初代『ダークソウル』の武器の強化派生は他シリーズと比べても特徴的で、「デモンズソウル」から入った人は、少々そのシステムに戸惑ったでしょう。

通常強化では+5までしかできず、その後”大きな種火”を得て進化させ、通常強化+6か、能力補正をすてて粗製強化へ進みます。

しかしここで聖職の種火をアンドレイに渡すか、地下墓地のバモス、小ロンドのリッケルトにもっていくと、聖職武器や、炎武器、魔法武器に派生できます。

その後通常武器は+10,それぞれの派生武器は+5まで強化できますが、ここでまた強化は一旦止まります。それぞれ大きな○○の種火か、とても大きな種火を鍛冶屋にわたし、それ以上の強化へ武器を進化させます。

しかもこの派生強化はまだこれらだけではなく、さらにそれぞれの派生武器(粗製をのぞく)+5から、さらに別の派生武器を作ることが出来ます。それぞれ特殊な種火を持ち寄ることで、聖職武器から邪教武器、炎の武器から混沌の武器、魔法武器から魔力武器へと派生するのです。

これらさらに派生した武器は、能力による属性攻撃力の補正が強くなったり、別の属性に変化したりと、それぞれ効果をもちます。

ここまでの説明でも結構複雑でしたが、実は『ダークソウル』にはさらに二つの派生武器があり、それが雷の武器と結晶武器です。

頑張って作った武器派生強化表。
細かい部分までは分からないが、大まかな流れは間違ってはいないはず。
注目してほしいのは、巨人鍛冶に頼める二種の武器進化。

見て分かる通り、『ダークソウル』の派生はそれぞれ樹形図状に分岐しており、特殊なソウルによる変化を除けば、通常強化の道か、派生強化への道、その派生強化からさらにその属性の別の一面を加える、特殊派生へと進める道とに分かれます。

この例を巨人鍛冶の例に当てはめて考えてみると、この雷属性武器と結晶派生武器は同根の力から分岐する属性の、別々の側面を表した力ともいえるのではないでしょうか。

この考えを直ちに納得してもらうのは、正直なところ難しいです。なんとなく対に扱われているという事は上の例で示せたとは思えますが、その力が同根のものという考えには、まだ飛躍があるように思えます。

しかし他の様々な面から竜と雷の関連性が示せれば、このシースが研究した竜の不死の力の源である結晶と、その竜を殺しえたグウィンの雷との同質性も、示すことが出来るかもしれません。

無名の王の力

古龍の頂で鐘を鳴らすと戦うことが出来る、無名の王。この無名の王という呼称やその姿、戦い方から、彼が愚かさゆえに神を追われ名を消されたとされる、太陽の長子ではないかという説は有力です。

彼の操る十字の鉤手のついた剣槍には、もともと雷の力が付与されていますが、戦いの後半からはさらに強力な雷の力が見られます。その一番のきっかけと言えば、彼が盟友とした嵐の竜を剣槍でとどめを刺した場面であり、その雷の力はじつはその竜に宿っていたのではないでしょうか。

とはいえ、このような描写があったからと言って、竜に雷の力があったとは即座に考えられないでしょう。

戦いのさなか、嵐の竜は普通に炎のブレスを吐きますし、その他”無名の王”自身が扱うもの以外で、雷属性の攻撃はありません。この古龍の頂のステージでも、一貫して竜や竜たちの眷属が吐くのは炎であって、竜と雷の関連性はただ弱点となるというだけです。

しかし、もしも雷が竜の魂の力であるがために弱点となっていたのなら、その魂は竜にとって聖なるものであるために禁忌とされ、タブーとなっていたのではないでしょうか。

そのような論法が通るなら何でもありだと思うかもしれませんが、今回はあえて”無名の王”が嵐の竜にとどめを刺す前後のみに焦点を絞って、考察したいと思います。

まず、彼が竜を殺す以前では、普通に”無名の王”は雷の力を使います。これは、まったく参考にならないどころが、検証が難しくなる要因です。

しかし彼が竜を倒した後では、彼の槍には雷がまとい、明らかにその力は強くなっています。これはこの説を後押しする描写ですが、彼がそれ以前にも雷を使っていたために、はっきりとは検証不能です。嵐の竜のソウルを得た彼が力を増したり、盟友を失った怒りで本気をだしたようにもとれる描写です。

ここで無名の王が嵐の竜の力を得、そしてその力が雷だという論拠として、先にも挙げたオーンスタインとスモウの前半、後半の戦い方が参考になると思われます。そもそもこの”無名の王”の演出も、この前々作のセルフオマージュと思われ、イベントシーンの構図なども似ています。

さて、オーンスタインとスモウ戦では、前半で先に倒したボスは後半で残ったボスの糧となり、残ったほうのボスは巨大化し攻撃方法も一部変化します。しかも前半でスモウを残した場合では、彼が武器によってオーンスタインの遺体をすりつぶし、その武器に雷の力が付与されます。

巨大化したオーンスタイン。
出の早い攻撃、範囲内での槍の追尾性、遠距離攻撃や追加された雷の広範囲攻撃など隙がない。
スモウの死体から力を得て巨大化しているものの、槍は普通。
巨大化したスモウ。
雷の力が付与されて、明らかに鎚が光っている。
しかし強化された攻撃はあっても攻撃パターンはあまり変わらないようで、一対一では戦いやすい。通常の攻略では、こちらを後に残すのが一般的。

この通り、一方のボスの力を受け継いで強くなることは”無名の王”と同様なのですが、武器のエフェクトはスモウのほうに近いことがわかります。スモウの強化ではその武器にオーンスタインの力をまとわせていることが見て取れ、単純な攻撃力の強化ではなく、もともとなかった雷の力を得ています。

”無名の王”も戦いの前半では通常、雷のエフェクトをまとっていませんが、後半に嵐の竜の力を得た後では、スモウのような雷のエフェクトを武器にまとわせます。この例に倣って言えば、槍に嵐の竜の力をまとわせたため、その力によって雷が発生しているように見えます。単純に”無名の王”自身が強化された場合では、オーンスタインのように槍自身は普通のはずです。

嵐の竜にとどめを刺す”無名の王”(左下)と、その後(右上)。
明らかにこの前後で、槍に雷の力が宿ったことがわかる。また画像がうっすらとぼやける、アスペクト比が微妙に変化しているなどの影響もあるが、それもまた竜の力を受け継いだ代償なのだ。

この後半戦では”無名の王”は嵐の力も槍にまとい始めますが、そのことも先に挙げたように嵐と雷の関連から、この説を押す事例と言ってもいいでしょう。嵐の力は”無名の王”自身の力にはなっておらず、あくまで嵐の竜にとどめを刺した槍に力を与えています。雷の力が強化されたのも嵐の力が付与されたのも、竜の力が槍に強く宿ったためです。

その他雷と竜を関連付ける例

その他の竜と雷を関連付ける例としては、飛竜の谷の雷の竜があります。

雷の竜。
竜のウロコをドロップするため、リマスタードでのトロコンや、ドラゴンウェポンの強化にはお世話になる。明らかに雷の力を得た竜だが、その弱点はなぜか炎。

今に残っている飛竜は古の竜とは違うのかもしれませんが、いちおう雷の力つかっている竜です。アノールロンドの城にこの種の竜の首が飾ってあるため、一時期神々ははこうした竜を狩っていたと思われます。

誓約”古竜への道”のように、竜のウロコを得て飛竜になった何者かだと思われるのですが、竜のウロコを得てその姿に近づく過程で、こうした雷の力を得る場合もあるという例です。

こうした雷の力と、竜に変化する何者かという例に、3の”燻りの湖”にいるカーサスの砂ワームがいます。

巨人か何かの骨でできた巨大なワームですが、自身も雷を放ち、倒すと”不死の遺骨”と”雷の杭”を落とします。これがなんなのかは謎に包まれた存在ですが、ワーム=竜と雷の要素を強く関連付ける存在です。

雷を吐く砂ワーム(背面)。
背面からでもその強力な雷の力が、よくわかる。じつによくわかる。

最後に、3で”古龍の頂”の頂上で得られるアイテム、”光る竜体石”があります。

古龍の頂の頂上の祭壇に、”古竜への道”のモーションで祈るともらえる。
光らない竜体石と何が違うのかわからないが、なんとなく貴重でホークウッドには渡したくない。

これはもう見てわかる通り、竜の力が雷だという表現です。
竜の体を貫く光の線が、雷のように見えることは分かると思います。これだけと言えば、これだけなのですが、これが最後の論拠です。竜の力と雷の力、一筋縄ではいかない因縁がある事だけは分かっていただけたかと思います。

しかしさんざん語ってきたように、もしも「竜の魂の力=雷」だとすると、何が言えるというのでしょうか。

グウィンの本当の力

もしも竜に対しての”金枝”が雷の力であり、このグウィンの投げつけた雷の槍がそもそも竜自身の力だとすると、彼の代名詞であるその力は、竜から奪ったものだという事になります。

つまりまた、”グウィンの本質的な力”とは、雷ではありません。あのボスとして出てくる”薪の王グウィン”が雷を使わない理由。『金枝篇』の理論を当てはめてみても、雷が弱点でない理由もわかるでしょう。

別にグウィンに黄金松脂がさほど効かない理由は疑問に思わないと思いますが、炎が弱点とされる理由、彼が雷の槍を使わないことは、おや? と思った人もいるかと思います。

3の”王たちの化身”は後半で懐かしいBGMとともに、初代を良く見知った人にはお馴染みの、大剣の素早い片手振り、両手による剣技、蹴り、左手の掴みモーションを行いますが、同時に以前には見られなかった様々な雷の奇跡を行って来ることに驚きます。おそらくこれは後世の人間たちが”薪の王グウィン”に神話のような雷の力を信じ、多くの火継ぎの信仰者たちが彼の名のもとに火を継いできた証です。

しかし、もし『金枝篇』の理論がこのゲームの多くの事象を説明づけるのなら、彼の本質的な力は雷ではありません。その力は同時に彼の弱点ともなるものであり、そうした弱点属性を根源的に支える何かのはずです。

彼の大剣に煌々と燃える炎。そしてこのゲームにおいて、そうした炎を強く燃やし、その力を持つ派生武器、炎を扱う呪術の威力を高める力……

次回「ダークソウルと金枝 10」最終回では、大王グウィンの本当の力、そして彼がなぜ人の闇を恐れたのかを、考察していく予定です。

2021/12/28

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