SPテーマ「思い出に残る食事」

 つまらない、、もとい、苦手なテーマを強引に自分に寄せて書き上げた、、、大好きな祖母へのラブレターです。学校の勉強と思わずに、自分の思いを文章に載せる楽しさと苦しさを味わいました。後半は泣きながら書き綴った作品です。これを高評価してもらったので、勉強が楽しくなったと思います。

ばあちゃんのほうれん草のおひたし

 目の前の畑からほんの数分前に採り、沸騰させたお湯にくぐらせ軽く絞って切る。特別なことは何もしていない、素材そのままの料理だった。かつお節をひとつまみふりかけ、醤油を添えて目の前に置かれた。湯気があがり、かつお節が踊るのが少しだけ気持ち悪かった。

 せっかく出してくれたのに、とても野菜が苦手とは言えなかった。家族や親戚が揃っていることも有ったのかもしれない。思春期と反抗期真っ只中の中学一年生だったが、久しぶりに会った祖母には素直な気持ちになれ、食べてみようと箸をつけた。
 まだ温かい緑の野菜は、噛むたびにシャキシャキと音を立てる。苦味も臭みもなく、水っぽさも感じなかった。あまり力を入れて絞ったようには見えなかったが、余分な水分が残っておらず、なおかつ歯ごたえの残る茹で具合だった。祖母の作ったほうれん草のおひたしを食べて、噛んだときに野菜から染み出る余分な水分が、野菜を苦手な理由だと知った。その日の朝食は、白米と大根の味噌汁、固くて大きな梅干し、ほうれん草のおひたしと、甘くない卵焼きだった。普段ほとんど野菜を食べないので、母親が驚いた様子でこちらを見ていた。白米は粒が小さめで、少し柔らかめに炊かれていて粘り気があった。砂糖は入れず醤油で味付けされた卵焼きは、母親の作るものとほぼ同じだった。全体的に塩分が多めなこともあり、ご飯をお代わりして平らげた。
 食事の材料である、米・味噌・大根・梅干しは祖母の自家製だった。精米も祖母みずから行っており、収穫後の秋には新米と合わせて、味噌や梅干しも送ってくれていた。自宅でも同じ米や味噌汁を食べていたはずなのに、その日の食事は初めて食べたかのように美味しかった。

 数年後にひとり暮らしを始めてから、あの味が忘れられず、ほうれん草のおひたしを作ってみた。でも美味しいと思ったことはない。野菜の鮮度や、茹で加減でどうにか近いものは作れるかも知れない。ただ、完全に再現することは不可能だろう。何十年も野菜を育て、その素材を生かす調理をしてきた祖母だからこそ作れる一品なのだと、今なら分かる。

 ばあちゃんが育てた米の炊き立てご飯、ばあちゃんが作った味噌と大根の味噌汁、ばあちゃんが漬けた梅干し。それに、採ったばかりのほうれん草のおひたし。そして、家族や親戚が揃って囲む食卓。食べられなくなって初めて知る、人生で一番贅沢な朝食。

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