free「だから私は笑っている」

 年々、苦手だったほうの祖母に似てくる自分の顔が嫌いだ。しかもどんどん近くなってくるから、家に鏡がほぼないほど嫌いなんだよ。こういうこと書くと、かならず「自分のおばあちゃんのことそんな風に言うなんて」とか、もっともらしい正論ならべて、偽善者風な説教する人いるけど、事情も知らないくせに黙っててよ?って思う。申し訳ないけど、あなたが知らないこと、世の中には残酷なことが死ぬほどあるんだわ、残念ながら。私はその人に、生まれる前に殺されそうになってる。

 覚えてるのは、何かにつけて「○○(母の名前)の教育が悪いから、こんなこともできない。こんなことしてしまうダメな子だ」という容赦ない言葉。怖い顔、蔑んだような苦笑い。笑った顔を見たことがない。いや、他の人には見せてるのを、見たことはある。でも知っているのは、孫のことを矢で射るような鋭い視線と、文句しか出てこない口。への字。唇の形をよく覚えているのは、いつもどんなことを言われるか怯えていたからだ。

 電車の窓、風呂場の鏡、会社のお手洗い、、、今でも祖母がいるのかと驚くことがある。そういう時はいつも、あの人が絶対にしなかった顔をつくる。自分は違う、外見は似てるかもしれないけど、絶対にあの人みたいにはならない。だから、笑う。誰も見ていないのに笑う。そして誰かと一緒の時も。なるべく笑顔でいるように、怖い顔みせないように。

 明日も笑う。きっと、辛いことも寂しいこともいっぱいあるだろうけど。笑顔と笑声は、大人になって得た自分のもの。自分だけの武器。生まれなんか関係ない、私だけのものだから。だからこのちっぽけな命が尽きるその日まで、なるべく笑っていよう。明日も。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?