地域学び 23年度授業成果公開
はじめに
言語文化学科に所属、というと、文学か語学かの研究・教育をしている、と想像される。静岡大学は人文学部人文学科時代から、文化系の総合学科として、かなり学際的で自由な学問を展開してきた。私自身、文学研究と歴史研究のあわいで生きてきて、特に法人化以降は地域研究担当という側面が強くなった。
ただ、学生たちの多くは、元々文学語学指向が強いので、地域研究の授業を開講しても需要が少ない。それでも、定年間近になって、少しは悪あがきをしてみようかと、23年度後期「日本言語文化各論Ⅴ(シラバスリンク:いずれリンク切れになる可能性有り)」は大学周辺の文化や歴史に触れてみる、という、フィールドワークも含む授業を開講してみた。メインは2年生。実際、最後まで参加した学生は15名ほどで、座学の方が多い内容になったが、学生たちはグループごとにテーマを決めて、それなりに歩き回って成果を挙げた。一時はどうなることかと思っていたが、結果的にそこそこの物ができあがった。
この記事は、その成果を公表する場である。
上に書いたように、最終的な受講生は15人ほどで、以下の5つのグループに分かれた。
静大生のための散歩マップ
「沼のお婆さん」絵本作成
静大周辺社寺マップ
静岡大学で短編小説
無人販売探索日記
このうち、最後の無人販売班は、なかなか出店者と交流する取材が出来ないと言う苦労もあって、公開許可が得られないので今回は非公開。
他の物はそれぞれ異なるメディアを選択している。かつて、授業の成果物は印刷物として刊行するのが一般的で、私の授業でもかなりの印刷物を作成した。今回もそれを想定してたが、学生たちはそれぞれに考えがあってふさわしいメディアを選択した、ということのようだ。
では、一つずつ。
1 静大生のための散歩マップ
極簡単な写真とポイントの紹介、久能街道編・池田コース編・海側の3枚。静大生が空き時間に歩いて楽しいスポット、ということで、寺社マップ班のようにグーグルマップをカスタマイズして作りかけたようだったが、最終的に、地図は作らない、という方向になった。お薦めの場所は示すが、探索する楽しみはそれぞれで味わってほしい、ということらしい。
「久能街道編」は、家康の葬列が通ったと考えられる道筋を意識しながら、中心市街地から大学まで、バス道より西側を歩いてみるコース。これは実際かなり長いが、見どころは多い。
「池田コース編」は、大学近く、バス道より東側の住宅街の中。アパートが点在するため学生たちにはなじみがある散策路。山裾で大きな社寺もあり、新しい店もあります。
「海側」というのは、大学の南側。所謂通学路では無く、アパートも少ないので、海に出かけるなど、目的が無いと余り行かない方向。
2 「沼のお婆さん」絵本作成
作品リンク
所謂「沼の婆さん」伝説は、葵区麻機地区にある古い伝承で、大谷の古刹大正寺が伝承に関係している。過去、様々な媒体で紹介されてきたこの伝説を、学生たちは、生成AIを使って、ウェブトゥーンのような不思議なテイストのweb絵本に仕上げた。不自然で統一感があるのか無いのか判らないような仕上がりをむしろ楽しむべき作品。短い話で画像も少ないので、それぞれ伝承を調べていただきたい。
3 静大周辺社寺マップ
大満足の呼吸〜いちの型〜果汁たっぷり
この班も散歩班同様、大学のある有度山西麓の神社仏閣を中心に取材したが、それをインスタグラムの記事にした。結果的に飲食店なども含めたⅩの記事が公開されている。各ページ、画像も解説も多いので、見逃さずに覗いていただきたい。グーグルマップとの連動も試みていたようなので、今後公開されるかもしれない。私としては、授業終了後も情報を増やしてくれると嬉しいのだけれど、学生たちは忙しいし、授業がなくなると集合する機会もなくなるので、現実は厳しい。
4 静岡大学で短編小説
上のpdfをダウンロードすると、静大静岡キャンパスの図と、QRコードが示される。
静大生は、共通教育棟と学食、所属する学部棟、サークル関連施設以外、意識的な散歩好き以外は、特に建物に入る機会が殆ど無い。この班は、普段足を踏み入れない他学部の建物を取材し、インスピレーションを得て、6編の短い小説を書いた。中には、生成AIを利用した物も混じっている。
タイトルは、「椿の前で」「琥珀色の魔法」「スズランと鍵盤」「地球の裏側」「椅子たちの大冒険」「お嬢様倶楽部の華麗なる事件簿」
QRコードでは無く、直接リンクを示してほしい向きもあると想像するが、ここは敢えてそのままにしておく。もし、PCで開きたい場合は、このサイトなどを利用のこと。
5 無人販売探索日記(非公開)
冒頭に書いたように、この班は、小鹿・大谷、更に久能よりの東大谷(この辺は無人販売が非常に多い)も含めて無人販売を巡って写真を撮ってきた。とは言え、設置場所と設置者の住居が一致しているわけではなく、販売時間、補充・回収時間と学生たちの行動可能な時間との兼ね合いもあって、なかなか取材することが出来ないまま終了してしまったため、今回は、公開を断念した。
少しだけ私の感想を補足すると、このグループにいた留学生は、出身国では無人販売を見かけなかったと言っていたのが興味深かった。私自身も、子供の頃は農作物の無人販売を見かけた記憶が無い。地域コミュニティの中で余れば近所に配ると言うことが良くあった。無人販売という、コミュニケーションを排除したお金のやり取りという、性善説なのかよくわからないしかけについて考える機会になった。
さいごに
一つ一つの成果物は、見る人によっては、これが大学生の? とがっかりされるレベルのものかも知れない。それは私の指導力のなさとして、素直に受け容れるべきだろうと思う。
一方で、学生たちの反応をみると、こう言う授業が全くなかったので新鮮で楽しかった、という意見もあって、やった意義はあったのかな、とひとまず安堵している。
成果物の出来とは別に、所謂「コロナ禍」のなかで、対面で、地域の人たちと接しながら学ぶ機会の重要性や意義を感じ取ってもらえれば、それが収穫だろうと思う。
来年度は、この規模での地域研究の授業はお粉和井内予定だが、成果物を作る授業は別に考えている。
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