なんでもない一日
心をなくしていた。
ふと思い立ち、川まで散歩をした。
小一時間。
初めての道を通り、初めましてのお店でドーナツを買い、初めて目にする景色にワクワクが止まらない。
ゾロ目のナンバーに3回出会った。富士山ナンバーの777に、2222、8888。
土手は、おしっこ臭かった。
それでも、陽の光を受けた川面はキラキラ輝き、まばゆいばかり。その美しさに気圧され、思わず息を呑む。
水面の鳥が動くと、波紋もキラキラ輝く。
階段に座り、そんな風景を飽きることなく眺めていたら、かわいいお仲間ができた。
隣に降り立ち、一向に飛び去る気配がない。
「写真、撮ってもいい?」
そう尋ねたら、「かっこよく撮ってよ」と言わんばかりにピシリとこちらを向き、撮り終わるまでずっと、同じ姿勢で待ってくれた。
「ありがとう」と声をかけた後も、何か言いたげに私を見、まるで寄り添うかのように、しばらく隣にいてくれた。
こんな風にゆっくり景色を見たのは、いつ以来だろう。
コンクリートばかりを見ていた。
無意識に自分を急き立て、無意識に自分を責め立て、無意識に自分を追い詰めていた。
自分はダメだと責めてばかりいたことを、思い出させてくれた。
走り抜けてきた、この一年。
未知の世界に飛び込み、原因不明の体調不良とも向き合ってきた。
本当に頑張った。
抱え込んでいた思いが、少し晴れた。
帰り道は、違う道。
地図は見ない。
おぼろげな方向は、分かる。
道は、どこかに繋がっている。
歩き続けている限り、辿り着く。
今日、言葉を交わした人々は、みんな笑顔だった。自然と私も笑顔になる。
帰りに寄った初めましてのスーパーで、小さなタケノコを買った。皮を剥いたら少ししかないが、それでいい。
たくさんは、もういらない。
少しだから、味わう。少しだから、大切にいただく。
もう少し冷ましたら、皮を剥こう。
明日は、タケノコだ。
特別な喜びがあったわけではない。
それでも、今日は満ち足りた一日だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?