手紙

昔、大切だった人から手紙をもらった。臆病で弱気な私は、何かあるたびにその手紙を見ては泣いていた。手紙は一種の魔法みたいなもので。その中に書かれた私はとても綺麗で、見るたびに私は何にでもなれるんじゃないかと思わせてくれた。

時は経って、私も少しずつ色を変えて、大切だった人以上に今大切な人ができて。
そうやって生きているうちに、私の使える魔法は手紙だけではなくなった。ポケモンだと、体当たりだけじゃなくて水鉄砲や火炎放射を覚えたようなものだ。
そうしていつしか、私はその手紙を見なくなり、そんな魔法を持っていたことすら忘れてしまった。

この間大掃除をしたとき、ふと手紙の存在を思い出して、しまっておいたはずの場所を探したけれどどこにもなかった。それは少しだけ私を寂しくさせたし、私が昔と変わったことを暗に突きつけられたようだった。

人は必ず変わる。
そして、その人としての変化とともに、大切にしたいものや人だって変わっていくことのほうが多い。
でも、それで良いんだと思える。あのときの私には全てに思えるほど大切だったけれど、今は大切じゃない。そうだとしても、その「大切だったもの」は確実に私の人生の一部として生きていたわけで。これからも、私の人生の一部であることに変わりわないわけで。

私を支えてくれる「大切」は、刻刻と変化する。それは少し残酷だけれど、私が生きている証拠であるような気もする。
だから、過ぎた日々や失くしたものばかりに目をあてないで、この先にある日々に少しだけ期待をしてみたい。これからどんな「大切」に出会えるのだろう。私はどんな生きている証拠を見つけられるのだろう。少しだけ未来なんてものにワクワクしながら、「大切だったもの」を記憶の棚にしまって、私の生きている証拠をつないでいこう。