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Exhibition Information ''K2/Broad Peak/Nanga Parbat&Dhaulagiri/Kanchenjunga/Manaslu''(The former part)


現在SAI(渋谷)、GYRE GALLERY(表参道)、PALI GALLERY(宮古島)の3つのギャラリーでは、連動して写真家・石川直樹による個展が開催されている。
そのうちの、SAIでの『K2/Broad Peak/Nanga Parbat』(会期:1/13〜2/5)とGYRE GALLERYでの『Dhaulagiri/Kanchenjunga/Manaslu』(会期:12/17〜2/26)の個展、2/1にSAIで行われたご本人によるギャラリーツアーに足を運んだ。

*本タイトルは前編・後編に分かれています、本記事は前編です。

*下線部_をタップすると詳細が表示されます。

とてつもない衝撃が走った。本展を訪れ、直接写真を目にした人達は、誰もがその衝撃を体感したのではないだろうか。正直にいうとこの記事を書く前は、本展を見た自分の感情や所感を、言語化することができるのだろうか…と、気持ちが萎縮してしまったほどに圧倒された展示だった。実際、全く上手く言い表せていないと思う。が、"書きたい、自分の言葉で伝えたい"という気持ちが圧勝したため、個展詳細とともに、本展の素晴らしさと感動を私の言葉でお伝えしていこうと思う。


彼は、2022年春から秋にかけて世界第二位を誇るK2を初め、パキスタンとネパールにまたがって点在する6つの山に向かった。そのうち、雪崩で撤退を余儀なくされたNanga Parbatを除く、5つの山の登頂に成功した。

SAIでは、パキスタンの3つの山(K2/Broad Peak/Nanga Parbat)で撮影された写真、GYRE GALLERYではネパールの3つの山(Dhaulagiri/Kanchenjunga/Manaslu)で撮影された写真が展示されている。撮影された全ての山が標高8000mを超え、登頂が困難だと言われている山だが、彼は幾度も身体的、精神的な困難を乗り越え、美しさと悍ましさを兼ね備えた山の全貌を捉えることができたのだ。

SAIとGYRE GALLERYを比較すると展示物の違いだけでなく、各個展が纏う雰囲気そのものが全く違っていた。物凄く簡潔に表すと登山における楽しさや、過程で訪れる出会いや人の温かみをより感じられたのがSAI、山に対する恐怖や、壮絶でリアルな背景をより感じられたのがGYRE GALLERYでの展示だった。

K1(@SAI)
Kangchenjunga(@GYRE)


SAIの展示では大きな山々の写真に加え、2Lサイズほどの小さい写真群が壁にズラリと並んでいた。

それらの写真は遠征の全貌を表したもので、それぞれに撮影された日付が表記されている。2、3000円で購入した35ミリカメラ、Canonのオートボーイで撮影された写真であり、オートボーイ自体、フィルムカメラの中でも古い型であるため、写真に2022年度の日付が表示されることはなかなかに珍しいようだ。彼は、日付が表記されたその写真群を長期遠征時の日記としていた。実際のところは、文字による日記としたかったそうだが、"ペンを握る気も起こらないほどの疲労"を感じる日もあり、継続の難しさを感じたという。

彼が撮影時、一貫して中判フィルムカメラを使う理由は、"失敗したから消す、ということのできないフィルムカメラは、旅先における一期一会の出会いをその状況ごとに克明に写しとることのできる手段だと考えている"という深い考えによるものからだった。彼は、この遠征に2台の中判カメラに3台のオートボーイ、動画を撮影する用のデジカメを持っていった。


右下に22年7月2日と記されている。


先ほど話した、登山における楽しさや温かみの部分を私が感じ取ることができたのは、主にこの写真群からだ。登頂をお祝いするケーキ、訪れた場所の村人や登山仲間の姿の写真。


加えて、道中で壊れた登山靴の写真に連なり、その靴を現地の人に修復してもらう様子が記録された写真。登頂までを記録したシビアな写真群に反して、日常的要素が感じられる写真が多く見られた。


2022/08/02 
右の靴内側、ソールとの境に穴があいている。

2022/08/06 
壊れた靴を現地の人が修復している様子。

SAIの個展は、おこがましくも親近感が湧くような、時折自分の日常とそう大きくはかけ離れていない感覚に陥った。

写真の他に本展に展示されている鉱物・石の数々は、彼が現地で拾ってきたもの、または現地の子供たちと物々交換の末にもらったものである。石の横に置かれるキーホルダーのようなものは、ロバの耳に付けるお守りだ。

それらを目にした私にとっては全てがもの珍しく、美しく、とても特別なものに感じたのだが、現地の子供たちは、これらを彼のいらなくなった食料や衣服と交換したというので、ものに対する価値基準があまりにも違うという事実を知った。展示作品からは他にも、宗教や歴史、環境などの異なる部分から生じたであろう日本との違いや、ネパールとパキスタンの違いを鮮明に感じられた。


Nanga Parbatでの一枚。
過去の歴史により銃を保持していることもあるため、ベースキャンプに入った後は写真があまり撮れなかったそう。

マスクのような袋を着用したロバの写真。
マスクのような袋の中にとうもろこしなどの餌が沢山入っており、食べている様子。地面に餌をまくと、ロバの口が傷ついてしまったり、地面の隙間に餌が入り食べづらくなってしまうので、それらを防ぐためのものだという。

パキスタンのスカルドゥという街。
ここで買い出し等を行なっていたという。イスラム教の街であるスカルドゥは、ネパールとは異なり女性があまり出歩いていないため、写真には男性しか写っていない。

パキスタンの村人によって食された後のヤク(ウシ科)の写真。
ヤクが大切に扱われるネパールでは、ヤクを食べることはほとんどないというが、パキスタンは宗教上豚を食べない代わりに、ヤクを解体し食べることがあるという。

本展最後は、テーブルに置かれた哀愁漂うリンゴの写真で締めくくられていた。

これはNanga Parbatの登頂が叶わなかった悔しさを感じながら、最終日にパキスタンのイスラマバードのホテルでかじったリンゴの写真だという。
Nanga Parbat登頂リベンジの思いもあり今年3月頃に、再度ネパールとパキスタンに訪れる予定だそう。

SAI、GYREどちらの個展も、自分が今後の人生で直接見ることがないかもしれない景色とリアルな体験を目にすることができる。これが無料でいいのか…という申し訳なさも出るくらい作品数のボリュームもあり、非常に心揺さぶられる見応え抜群の個展である。こちらのSAIは会期残り僅か(2/5まで)なので、是非ともギャラリーに駆け込んで見ていただきたい。

【後編は、GYREの個展について。後ほど公開します。】


Naoki ISHIKAWA【K2/Broad Peak/Nanga Parbat】
会期:1月13日(金)〜2月5日(日)
会場:SAI
住所:東京都渋谷区神宮前6-20-10 宮下パーク SOUTH 3F
開廊時間:11:00 – 20:00
休廊日:なし

石川直樹 Naoki ISHIKAWA|(いしかわ なおき)
1977年東京都渋谷区生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら、作品を発表し続けている。2008年『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)により日本写真協会賞新人賞、講談社出版文化賞。2011年『CORONA』(青土社)により土門拳賞。2020年『EVEREST』(CCCメディアハウス)、『まれびと』(小学館)により日本写真協会賞作家賞を受賞した。


文・写真 / 木村星来






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