Magic:The Gatheringプレイテストの歴史

こんにちは、ナナドラと申します。

この度、1993年に発売されたカードゲーム 「Magic:The Gathering」 のプレイテストカード、つまり発売前の試作カードの一部を手に入れる機会に恵まれました。

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*入手した《Faerie Dragon》は《チビ・ドラゴン》の原型となったもの

取引相手は、マジックの創始者であるRichard Garfield氏と共に実際にプレイテストを行なっていたJoel Mick氏(過去に主席デザイナー、主席デベロッパー等のポジションに付き、かの有名なMark Rosewater氏(通称マロー)を採用した人物)でした。

プレイテストカードについてよくわかっていない私に対しても非常に好意的に取引をさせていただき、彼から直接マジックのプレイテストの歴史について話を聞くことができたので紹介いたします。

マジックの原型となるプレイテストにはいくつもの段階がありました。

《アルファ・プレイテスト》

マジックの原型は、Richard Garfield氏が手書きで作成した120枚の1つのデッキを2人のプレイヤーが使用するものでした。 それはアルファ・プレイテストと呼ばれ、Joel氏曰く Richard Garfield氏はまだそのプレイテストのカードを全部持っているだろうとのことです。この段階ではRichard氏の友人のBarry Reich氏と二人でプレイされていました。

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一度でいいからこのDragonの全容を見てみたい…


《ベータ・プレイテスト》

その後5~10人程度の小規模なプレイテストがあり、ベータ・プレイテストと呼ばれました。ベータ・プレイテストのクリーチャーは、パワーとタフネスが別々ではなく、数字が一つしかありませんでした。テストプレイヤーはランダムに選ばれたコモン20枚程度、アンコモン7枚、レア2枚のデッキを渡されました。レアは本当に貴重で各5枚程度しか存在しないとのこと。
土地も含めて合計60枚のカードから40枚をデッキとし、残りの20枚をトレードすることでデッキを強くしていくという遊び方だったようです。

トレードでしかカードを入手することができなかったことに加え、カード枚数自体が少ないため環境が極端に偏ることはなかったようです。

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“ベータプレイテストの”Dragon”。マナ色は空白の◯に後から色を加えたものになっています。

《ガンマ・プレイテスト》

三番目に作られたのがガンマ・プレイテストで、ルール的には出版されたマジックの初版にかなり近いものでした。クリーチャーにはパワーとタフネスがあり、ほとんどのカードが出版されたマジックに採用されました。

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ガンマテストプレイの”Dragon”。マナ色は現在と同じWUBRG表記に。


ガンマの時代に恐らく最初のマジックの大会が開催されました。その際に大会で使用するカードとそうでないものを区別するためにカードの裏面にユニコーンのイラストを追加してプレイしたとのこと。

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大会に使用されたカードの裏面に押されたユニコーンのイラスト。

これらのプレイテストは全てRichard氏が運営していました。その後、彼は博士号を取得してテストプレイが行われていたフィラデルフィアを離れましたが、プレイテストの継続を望んでいました。
Bill Rose氏(現在のウィザーズのR&D副社長)とJoel氏はその後、マジックが出版される前に、さらに2つのプレイテストを行いました。それらのプレイテストは、ほとんどがカードのバランスと新しいカードの作成に関するものでした。

《デルタ・プレイテスト》

ガンマの後にデルタが作られました。デルタではガンマと同じイラストを使用しています。デルタ・プレイテストではキャスティング・コストを調整したり、カードを異なる色に変えたりして、名前や効果とよりよくマッチするようにしたり、デュアルランドのような新しいカードが作られました。

《イプシロン・プレイテスト》

デルタでのプレイテストが終わった後、つまりデザインの変更や新しいカードの数が十分に増えた後、イプシロンが作られました。 ガンマとデルタのアートに飽きていたので、ほとんどのカードについて、アートを変更したそうです。イプシロンが最後のプレイテストとなり、その後マジックの初版が発売されました。

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イプシロンのFaerie Dragon。チビ・ドラゴンの原型としてここで初めて作られました。

このように、いくつもの段階を経てマジックのプレイテストは実施され、試行錯誤の末1993年に初版であるLimited Editionが発売された、とのことです。

※ちなみに、これだけテストプレイが実施されたのにも関わらず、P9のようなぶっ壊れたカードが調整されなかったのは、テストプレイ時にそれらが十分な枚数配布されなかったため、強さが認識されにくかったことが原因のようです。

《終わりに》

Joel氏は本当に素敵な方で、こんな素人の日本人に沢山お話をしてくれました。

彼からこのような貴重な話を聞けたことは、マジック好きとしてプレイテストカードを手に入れたことと同等かそれ以上の素晴らしい経験となりました。
(彼にコレクションしているシヴ山のドラゴンたちを見てもらえたこともとても嬉しかった)

拙い文章ではありましたが、共有させていただきました。

読んでいただいてありがとうございました!!

いつか《Dragon》のプレイテストカード(シヴ山のドラゴンの原型)を手に入れたい!!!

(ところでテストプレイカードにすら5つも版があるなんて、コレクターにとって沼すぎませんか・・?w)


※おまけ《プレイテストカード枚数について》

作られたセットの総数は推測することしかできないが、Joel氏の推測では,ガンマは5~10セット,デルタとイプシロンはそれぞれ3~5セットくらいだと推測されるそうです。ガンマのレアは数枚、アンコモンは10〜20枚、コモンはおそらく40~60枚作られていたとのこと。


ただし、確かなのは作られたカードの50%以下、おそらく20~30%以下のカードのみが現存しているとのこと。新しいプレイテストを始めたとき、多くのプレイテスターが古いプレイテストカードを捨ててしまったり、後で家を引っ越したときに全部捨ててしまったり、単にカードをなくしてしまったケースも多いようです。
今残っているカードは本当に貴重!!!

※更に追記↓

※おまけ2《マナコスト表記について》

テストプレイ時のカードのマナコストの表記方法は今とは違うことが新たに判明しました。

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例えば”Angel”のテストカードは5WW、7マナとかなりコストが高く見えますが…

上記の場合だと”5WW”は不特定マナ5、白マナ2の合計7マナと読むのではなく、合計マナ5、その内白マナ2、つまり今の表記だと”3WW”となるようなのです(ややこしい!)

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ちなみに不特定マナが必要ない場合はそのままです。先程のルールだと”黒”は”1B”と表記したいですが、”黒”は”B”で黒マナ1という意味。(ややこしい)

“Dragon”の場合も6RRとかなり最初は高コストだったんだな…と思ってましたが最初から今で言うと4RRで変更なかったんですね。

いつから今の表記になったのかは不明ですが、最初期はこのようにマナコストを表記していたようです。(ややこしい)


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