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7月26日は鯛焼きを

「クリスマスばっかり騒がれすぎじゃない?」

そんなことが話題に上がったのは、確か去年の11月頃だっただろうか。友人と二人で学校に向かう道中のことであったのは確かだ。あまりに寒くて長い通学路と、学校に着けば待っている面倒な実験準備が私たちの気分を妙な方向に攻撃的にさせていた頃である。クリスマスの話題で浮き足立っている世間の雰囲気と、自分たちの研究の切迫感はあまりにかけ離れていた。そんな私たちが「クリスマスばかり騒ぎ立てるとはけしからん」「何かクリスマスぐらい盛り上がる別のイベントを考えよう」という考えに至るまで、そう時間は掛からなかった。そしてその友人に楽しくクリスマスを過ごしうる恋人がいるという事実を私が思い出したのはちょっと後のことである。

我々は、まず「クリスマスに代わるイベントをいつ行うべきか?」ということを話し合った。折角なので、欧米より伝えられたクリスマスとは真逆に日本で昔から知られている日にすべきではないか、と「大安吉日」の概念を持ち出すことにした。ちなみに私は大安以外の友引やら赤口やらがどういう意味を持つのかよく分かっていないが、だいたいみんなそんなもんだろう。大安がおめでたい日だということだけ承知していれば、とりあえずはオッケーなのだ。

しかし調べてみてから気づいたが、大安は結構なペースで暦に登場していた。6日に1回の頻度では流石に飽きも来よう。そうして行き詰まった我々に名案を与えたのは、もうひとりの友人であった。その友人はこういった、一文の役にも立たないであろう議論に全力で乗っかってきてくれる数少ない友人の一人である。彼女は私たちに、六十干支という概念を導入することを提案した。六十干支とは、古代中国から伝わり古くから日本でも用いられてきた思想で、十干(甲、乙、丙、丁、、、というアレ)と十二支の60パターンの組み合わせを並べて暦としたものである。この中で、おめでたい日として彼女が「甲子(きのえね)」を選んでくれた。確かにwikipediaにも甲子は吉日だという記載がある。こうして私たちは、「6日に1回の大安」と「60日に1回の甲子」の組み合わせで「およそ年1回のお祝い」というクリスマスに近い条件を得ることができたのだった。

そして一番重要なのが、「何をするイベントなのか」である。クリスマスは日本においてはプレゼントを食べてケーキと鶏肉を食べる日だ。ハロウィンは仮装をして練り歩く日だし、バレンタインはチョコレートを贈る日で、盛り上がるイベントというのは往々にしてわかりやすいのである。イベントにかこつけて美味しいものを食べたい、という下心もあって、「何か食べる日にしたいよね」ということになった。そこで「大安のたい」と「鯛」を掛け、「大安のあん」と「餡」を掛けて『餡入りの鯛焼きを食べる日』とした。

元々日本で昔からお祝いごとの象徴として用いられてきた「鯛」を象った鯛焼きを、吉日である大安と甲子がぶつかった日に食べ、無病息災を祈る。これが我々の考えた「テンションぶち上がるイベント」である。これが流行るかどうかはよくわからないが、タピオカが今更流行ったのだから、「地方のショッピングモールの、中高生がたむろするフードコートの隅にあるテナント」仲間である鯛焼きが流行るのもありえない話ではないだろう。

大安、甲子が重なるのは、2019年は7月26日である。偶然にも華の金曜日だ。華金には街に繰り出して、鯛焼きを食べに行こう。暑いだろうから、タピオカか何か冷たいものも一緒に。

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