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5年越しのファーストデート

その人とデートしたのは、彼を好きになってから5年目のことでした。


彼と出会ったのは12歳の春。中学校で同じクラスになったけれど、人見知りを発動してグループに入りそびれた私と男の子とばかりしゃべっている彼に、接点はなかった。

2年生になって初めて話したかもしれない。何度も席が隣になった男の子と仲良くなり、彼の所属しているサッカー部の他の部員とも、次第に仲良くなっていった。

そうして少しずつ話すようになったある日の席替えで、彼と同じ班になった。前列1番右端の彼の斜め左後ろに私。気づいたら好きになっていて、机をくっつけて食べる給食の時間が楽しみだった。
いつもじっと目を見て話す彼。その目が子犬みたいだな、と思いながら絢香とかコブクロの曲を一緒に口ずさんでいた。タイプではなかったはずの顔も、見るたびにキュンキュンするようになった。
英会話スクールが一緒になって、たまに私服で会う休日には服を死ぬほど悩んだ。といっても、女を意識していることを知られたら終わりだと信じていた私は、わざわざかっこよい服を選んでいった。ジーンズにパーカーだとか、派手めなチェックシャツだとか。


3年生の秋に告白した。
告白するならクラスも関係なくなる卒業のときだと思っていた。フラれても気まずくないから。でも、「志望校ランク落とすかも」という彼の言葉を聞いて、「今告白しなければ付き合うことすら叶わなくなってしまう」と思った私は、翌日の学校の休業日も一緒に予習する約束をした。家に帰ってから夜な夜な手紙を書いた。直接告白する勇気はなかったから。
翌日、手紙の事が気になって気になって、勉強にはなっていなかった。渡したいのに他の同級生がいなくなってくれない。私が出ないといけない時間になり、「ちょっときてくれない?」と一緒に外に出て、「家で読んで」と渡してそのまま帰った。
彼にとってはまさに青天の霹靂だっただろう。戸惑った顔をしていた。少しモテていたから、もしかしたら見るまでは誰かの手紙を私が預かったのかとも思っていたかもしれない。
久しぶりに寝れない夜。
翌日、放課後返事をもらった。
「俺でいいの?」
「O君がいいの」
あの時一緒に帰っていたら、まだ何かが違っていたのかもしれない、なんて思う。
全国大会を1週間後に控えていた私は、そのまま玄関をダッシュで戻り、音楽室にかけこんだ。
受験期だったし、家の方向も真反対。クラスメイトには当然のように話していない。

結局同じ高校になった。クラスが違うから前のように話せない。週1回の英会話しか話す時がなくなった。あとはたまにメール。

高校は、私が遠回りしたら20分ぐらい一緒にいれた。でも、彼の部活終わりよりも私の方が遅いことが多い。もちろん彼は待ってくれないし。3回だけ一緒に帰った。

どう見ても友だち以上の気はなかった。おまけに受験やら家庭やら高校の部活やらで疲れていた彼は、すごく怖かった。私は私でそんな彼に向きあう勇気がない。付き合っていたときが1番仲が悪かった。
1年経ち、メールを送った。

「別れよう」
返信はなかった。

何もないように、また週1回会う。

他の人を好きになったりもしたけれど、結局淡い恋心を持ち続けていた。
センター試験の科目が丸かぶりしていたから、半分ぐらいの授業は一緒。
彼が自分より前にいるときは、黒板を見ながら彼を見つめる。私より後ろにいるときは、後ろにプリントを渡しながら盗み見る。
付き合っていたときは、彼に冷たくされると悲しかったけれど、もうそれで十分だった。顔を寄せ合って数学の問題を解いたりする週1回を楽しみにしていた。

センター試験が終わると、大学に通うこともなくなり、英会話でも会うことは少ない。
国立大学の入試が終わり、メールをする。

「春休み、遊びに行かない?」

私は受かるかわからないけれど、彼はきっと、東京に行く。最後に、けじめがつけたかった。諦めたかった。あの時できなかったデートがしたかった。

「いいよ」
あっさり返信がきた。


デート当日、きっと世界中の初デートの女の子がそうするように、服を散らかした。付き合っていたときは怖くて履けなかったスカートにすることだけは決めていた。買ったばかりの化粧道具とギリギリまで格闘し、全速力で自転車をこぐ。
ちょっと時間に遅れて不安になりながら長野駅の西口へ行くと、工事の白い壁の前に彼がいた。私よりも30cm高い身長がさらに際立って見えた。

「結局、ご飯どうする?」
彼はきっと決めてくれないだろう、そう思って私は長野で数少ないそれっぽいお店を探していた。
「俺前行ったところでよければ…〇〇ってとこ」
めちゃくちゃ嬉しかった。こんな些細なことだけど、それでも前ならあり得なかったことだから。

タイ料理を慎重に慎重に口へ運びながら、いろんな話をした。
会っていなかったしばらくの間のこと。元クラスメイトたちの進路。そして自分たちの進路のこと。
結局2人とも大学は落ちて、同じ予備校で浪人することになった。
「コース分けのテストだるい」
「私免除してもらった」
「さすが京大」
「落ちたけどね」

プリクラを撮りたかった。彼の写真がほしかった。
でも、写真写りが悪いのを気にしている彼にそんなことは言えなくて…いや、ただ単に勇気がなくて、誘えなかった。

心残りに思いながら向かった先はカラオケ。
彼はAAAを歌う。私はあの頃2人で口ずさんでいた歌たちを…コブクロや絢香を歌う。
浪人生だし、あなたが私に恋愛感情を持っていないこともわかってる。だからもう一度告白なんてしない。でも、わかってよ。
そんな思いを、告白まがいの歌にこめたりして。

帰り際、気まずそうな彼。
「あの…サッカー班でディズニー行ったから…」
そう言って、ぶっきらぼうにミッキーのキーホルダーを渡された。
旅行中に少しでも私のこと思い出してくれたんだ…
何よりも恥ずかしがりで不器用な彼が選んでくれたということが嬉しかった。きっと、他の部員がいる中でミニーちゃんとか可愛らしいものは買えなくてミッキーを買ったんだろうな。

「大切にするね。ありがとう。」
ありきたりなことしか言えなかったけど、大事にしまった。

「浪人頑張ろうね」
「うん」


1年後の受験に、私はそのミッキーを連れて行った。
そして、彼は東京へ私は京都へ。
最後に会ったのは成人式の時。
SNSの更新も途絶えてしまって、就職したのかはたまた私と同じで留年したかもわからない。

元気?好きな人はできた?もう苦しんでない?
もうたまにしか思い出さないけど、ずっと幸せ願ってるよ。


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