[Column] 常識のアップデート
学校で習うことだって時代とともに変わる
小中学生の子を持つ保護者の中には、塾に頼らず自分自身で家庭学習の指導を行うこともあるだろう。学校の宿題を手伝ったり、ちょっとした質問に対して一般常識の範囲で答えることは、日常的にありうることである。
宿題のプリントに子どもが書いた答えが自分の知っているものと違っていたら、それを指摘したくなるのが人情である。でも、子どもが「学校でこう習った」と言い張ると、そんなはずがあるか、とケンカに発展してしまうことも、しばしばである。
塾の講師をしていると、教科書の改訂や教材の仕様変更などで、折に触れて最新の数値を見聞きできるのだが、学校教育から離れてほんの10年も経つと、自分たちが習ったはずのものと数値や事実関係が変わってしまっていることがままある。
21世紀がはじまって20年。現代社会は情報通信をはじめとした科学技術の発達にともなって、めまぐるしく変化している。20年前というと、いま小学生の子を持つ親が、まだ高校生くらいのころである。 時代の流れに取り残されぬよう、一般常識を更新していこう。
■ 地理編
世界人口:約77億人
筆者もそうだが、「世界の人口は約60億人である」と習った世代は多いのではないだろうか。いったい、いつの間にそんなに増えた? たった20年でおよそ1.3倍なのだから、人口問題や食糧問題が喫緊の課題として議論されるのも当然と言える。
EU加盟国:27か国
イギリスのEU離脱が大きく報道されていたが、それ以前に「EUってそんなに国の数があったんだ」という声が聞かれそうである。筆者も同感である。
2004年に東欧を中心として一気に10か国も増えているので、それ以前に義務教育を終えていれば15か国と習っているはずである。
トルコや旧ユーゴスラビア諸国など、今後まだまだ増える予定となっているのだが、その一方で、EUの中核たるドイツやフランスなどでは、多国間協調よりも自国の国益を優先する風潮がこのところ高まっており、その最たる例こそが、イギリスの離脱問題なのである。
民族意識や各国のパワーバランスにとっては重要なことであると理屈では理解しているが、受験勉強をする学生やその指導をする立場から言えば、数がコロコロ変わるのは迷惑きわまる話である。
■ 公民編
国会議員定数
衆議院465人、参議院245人 ※2021年現在
筆者は「衆院480、参院252」で習った記憶があるのだが、調べたところ、衆議院で「小選挙区比例代表並立制」が導入されたのが1996年で、その時の衆議院の定数は500人であった。その後、2000年の選挙で定員が20減らされ480となる。現在の定数になったのは2017年の総選挙からである。
衆議院は一貫して定数が減っているが、参議院は2004年の時点が定数242と最少で、2019年の参議院選挙では定数245、2022年に予定されている選挙では248になる。これは、いわゆる「一票の格差」による地域間の差を埋めるための措置である。
■ 理科編
太陽系惑星の数:8個
理科の時間に習った惑星の覚え方を思い出してみよう。
「すい・きん・ち・か・もく・ど(っ)・てん・かい・めい」
・・・9個ある。
そう、いまの30代以上の世代にとって、太陽系の惑星は冥王星まで含めた9個なのだが、2006年に国際天文学連合が「惑星」の定義を見直し、冥王星は惑星とは言えないことになった。
というのも、1930年に冥王星が発見されてから現在までの間に、天体望遠鏡の性能の向上や宇宙探査機による観測などで、太陽系の端、海王星よりも外側の状況が次第に明らかになったわけだが、その結果、冥王星以外にも同様の天体(エリス、ケレスなど)が発見されたり、当初予想されていたよりもかなり多くの天体があることがわかった。あまり知られていないが、冥王星の直径は、じつは地球の衛星である月よりも小さいのである。
天文学者は言葉・用語の再定義を迫られ、最終的に冥王星と、それと同様の性質を持つ天体を「準惑星」と新たに名付けた。ゆえに、義務教育で覚えるべき惑星の数は海王星までの8個となったのである。
さて、数値が変化しているものは他にもたくさんある。農産物の出荷額や、石油・石炭などの鉱山資源の産出量・出荷額のランキング、そもそもの国家の数自体も、新たな独立などで増えていたりする。
自分の中で常識だと思っていたことも、時代とともに変化する。教訓として言えるのは、わかっているつもりにならず、きちんと信頼のおける情報にアクセスしてから判断する必要があるということだろう。思い込みによる断定は危険である。
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