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【感想】うたつかい34号

大晦日である。
更新サボりすぎである。
うたつかい34号の感想を書いていくよ。35号も間をあけずに書きたいよ。


いい人になりたい 誰かの幸せに僕を重ねず願えるような/阿南周平「幸福論」

自分ではない誰かの幸せを願う。それだけで十分「いい人」足りうる。しかも「僕を重ねず」と言い切ることで、他人の幸せをひたすら純粋に願っていることが伝わってきます。平和な歌であるが、「僕」にそう思わせるなにか深い出来事があったのではと思わせる側面も持っています。


タピオカを鞄いっぱい詰め込んでサハラ砂漠を旅する女/泳二「キジトラ」

「タピオカ」は夢、「サハラ砂漠」は現代社会のメタファーと読み取りました。誤読かもしれませんが、そう捉えると2首目とのつながりが非常にスムーズになります。若い女性が過酷なサハラ砂漠を進んでいくには、たくさんのタピオカが必要なのだ。


いつの日か遠くへ行こうと君の言ういつかが一番とおくにあるね/海月ただよう「約束」

「いつか〇〇しよう」という言葉は、言う側は軽い気持ちで発している(言ったこと自体忘れていたりもする)が、言われた側には強い印象が残り「いつか必ず〇〇しよう」と両者にギャップが生まれることがよくあります。この歌では言われた側の主体がそのことを理解していて、悲しみや寂しさがじんわりと浸透してくる。


寝る場所をなくした猫が腹いせにパンチをかます薄型テレビ/諏訪灯「うつろい」

「うつろい」というタイトルのとおり、5首を通じて時間の経過を表現していますが、この表現力の高さが目覚ましい。直接的な言葉をあえて少なくしながらも、ごく自然に時の移り変わりを感じさせている。ここでは結句の「薄型テレビ」の一言だけで、時の流れと歌全体の意味の2つを明らかにする効果があります。巧い。


から揚げに檸檬をかけていいですかあなたに恋をしていいですか/髙木一由「片想いキッチン」

流れるような告白のテンポの良さに惹かれます。前半と後半の繋がりは一般的に見ればおかしいのだけど、これが短歌となるととたんに美しい飛躍へと変貌を遂げる。から揚げに檸檬がダメでなければ、流れのままに2つ目の問にもイエスと答えてしまいそうです。


青年がひとり窓辺に立つてゐるサナトリウムの土手に菜の花/中山裕之「地下に(自然詠の練習)」

こんな歌を詠みたい。静かでやわらかでリズムよく力強さも併せもつ歌。単語のひとつひとつがピッタリと嵌り、別の言葉に置き換えようとするものなら全てが崩れていくような。私も練習します。


寝返りをうてば脳裏をすべりゆく飛行機雲の記憶ひとすじ/氷吹けい「ふりむけば春は零れ」

こんな歌を詠みたいパート2です。氷吹けいさんの歌は以前も感想を書かせていただきましたが、これはもう理屈ではなく感情の部分でこの方の詠む歌が好きなんだと思います。なんてきれいな脳裏だろう。


詩がころぶ詩がたちあがる詩がわらうまだしゃべれない詩のうつくしさ/御糸さち「さんにんめと 五首抄」

「詩」は子どものこと。内容からだけでなく、「詩」以外は全てかなを用いていることからも、子どもがまだずいぶん幼いことが読み取れます。子育ては決して楽しいことばかりではないけれど、子どもの一挙手一投足のすべてが愛おしい。詩に深い愛情を込めた紛れもない傑作。


包丁を入れたトマトの裂けめからあふれてしまう愛の真似事/淀美佑子「彩度」

現実にトマトを切るときにあふれてくるのはトマトの種ですが、ここでは「愛の真似事」。気になるのは”愛”ではなくて「愛の真似事」であるということです。ニセモノや仮初の愛と考えると、前半部もなにか不吉なことを暗示しているのではないかと思えてきます。


以上9名の方の歌に感想を書かせていただきました。
なんとか2020年内に書き終えてほっとしています。紅白がもう歌納めです。
それでは残り僅かな2020年を健やかに。良いお年を。

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