【感想】「あなたの29年間は」(第1~3回)
TANKANESSで6回に渡って連載されている「あなたの29年間は」に、私も畏れ多くも参加させていただきました。
この企画は平成2年生まれの人たちが境涯詠とエッセイを寄稿したもので、同い年の方の歌とあって共感するものが多かったように思います。
ではでは感想を。
ここもまた居場所でないと知らしめるような再開発のクレーン/神丘風「コスモスの森」
実家、学校、故郷、職場、そして東京と、連作全体を通して”居場所”を探していることが伝わってくる。この一首では、ここが居場所ではないことを示す象徴としてのクレーンの無機質な感触が、歌のもの悲しさをより際立たせることに成功している。「再開発」とあることから、再開発が始まるまで、ここは自分の居場所である、あるいはそうなるかもしれない、という感情がもしかしたらあったのかもしれない。
のうのうとえんがちょかまして生きたるよ信じんことには生きられぬ世を/のつちえこ「三千世界」
ひらがなの使い方が特徴的で、宗教の要素と相まって、どこか神秘的な近寄りがたさを感じる。しかしこの近寄りがたさは決して不快ではなく、離れすぎることなく同じ世界を分け与えてほしくもなります。私にはない世界、感覚でつくられている歌には、どうしたって惹かれてしまう。
難易度の高いまちがい探しってたとえばきのうまで未成年/御殿山みなみ「メルクマール」
誰にでも平等に否応なくやってくる二十歳の誕生日。昨日となにも変わらないはずなのに、社会的な責任だけが一気にのしかかってくる。どうしようもないことは分かっている。しっかりしなくちゃいけないということもわかっている。周りの友達は二十歳を迎えても、何事もなかったように変わらないままだ。けれど。私だけが置いていかれてしまったみたいだ。
楽しいと思えばふつうに笑えると知るまで長くかかっただけだ/なべとびすこ「遠い場所」
「笑って」なんてかんたんに言わないでほしい。せめて「笑って」の前に「みんなと同じ時に同じ様に」を忘れずにつけてくれれば、もう少しうまく笑えていたかもしれない。だけどもう大丈夫。無理に笑わなくてもいいと知ったから。楽しければ笑えると知ったから。20首を通しての成長が心地よい。
16のわたしは全てを知らなくて空の飛び方さえも忘れて/継野史「愛の温度」
あの頃、登れずにいた子もいる中で、登り棒から空を飛んでいたわたし。だけど16歳になったらなにも分からなくなってしまった。もう空は飛べなくても一歩ずつ生きていることが、このあとに続く内容から見て取れる。一首目ではないけれど、この歌はスタート地点となる一首なんだと思う。
以上、第3回目までの感想を書かせていただきました。
連載はすでに第6回を残すのみとなっていますね。後半の感想も書ければいいなと思っています。
それでは。
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