見出し画像

あやつり人形

ある暑い夏の日
親戚の車に
自宅近くで車椅子の母と二人で拾われて
母の父親が眠る田舎の墓地へ
お墓参りに出かけた

家の外は車いすの
親戚の叔父さんと母は
冷房の効いた車の中で
運転手の従兄と
静かにお留守番

車を降りた
叔母達と私は
お墓にお線香とお花を手向け
ご先祖様に心を寄せて手を合わせ
お参りをすませると

車に戻り
全員そろって
田舎の家にお邪魔する

玄関から進んで
和室の居間に入ると
採れたてのみずみずしい果物や
茶菓子がお皿に盛られて
大きなテーブルの上に並んでいる

叔母達や田舎の家の親戚の
昔話、歓談が流れる中で

甘くて柔らかい桃や梨やすいかをいただくと
採れ立ての新鮮さに
身体の細胞が生き生きと反応しているのを感じつつ

やわらかい果物のひとかけらを
横に座らせている母のために
さらに小さくして
口元に運ぶと
母は口を開けて
歯は無くても
少し顎を動かして咀嚼してから
ゆっくりと飲み込む

母のゆっくりのペースに合わせて
何度か口に運ぶのをくりかえし

そろそろ
帰り支度を始める時間になると
母を立たせ
後ろから支えてゆっくり歩かせながら
トイレに連れていき
おむつを取り替えて
帰り支度を整える

そして最後に
田舎の親戚の玄関前に
総勢8人ほどが集合して
記念撮影となった

それから数日が経って
親戚から送られてきた写真には

両脇を親戚に
あやつり人形のように支えられ
しっかり立っているのがちょっと辛そうに
ぎこちない表情をカメラにむけた
母の姿があったが

それは
母が自分の意思で
その日一番頑張った瞬間だった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?