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見知らぬ男の子

母の出棺前

棺の中には
母が身に付けていたいくつかの私物と

葬儀会社から促されて書いた
母への手紙と

そして
古いアルバムの中にあった
見たことのない
知らない小さな男の子の写真を入れた

知らない男の子が誰なのか分かったのは
私が高校生の頃だっただろうか

母はいますか?と
どこかの男の人から電話がかかってきた時に
母に誰なのか尋ねると
母から
自分の子だと
聞かされたような気がする

母が父との再婚前
母の最初の結婚で
生まれた男の子からの電話だった

アルバムの中の
知らない男の子と
電話をかけてきた男性が

同一人物であることが
私の中で一致したのは
もっと後のことだったと思うが

母の棺に何を入れようか
あれこれ考えていた時に

あっ、と
知らない男の子の事を思い出して
古いアルバムの中の
何枚かある男の子の写真の中から
一番の笑顔の写真を選び

母が昔
父と結婚してから
お姑さんが男の子の写真を捨ててしまった
というのを聞いていたような気がしたので

母の葬儀に集まる
親戚の中には
祖母と同じ考えの人がいるかもしれないと思い

知らない男の子の写真を半紙に包んで
誰にも気づかれないように
棺の母の胸の上にそっと置いた



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