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連載「東京空襲体験記 字の風景録」を歩く 第4回—江東区東雲・東雲キャナルコート(旧三菱製鋼)

 2023年3~5月に開催した企画展「空襲体験記を書く、一冊に編む」の写真図録を作りました。
ウエブサイト「東京空襲体験記 字の風景録」
https://jifukei.wordpress.com/

 4回の連載で掲載写真を紹介します。
 最終回は「写真5.8 東雲キャナルコート(旧三菱製鋼)、辰巳運河側からの眺め。 2023.01.08」です。
片岡綾子の空襲体験記 風景録より
https://jifukei.wordpress.com/2023/06/26/%e7%89%87%e5%b2%a1%e7%b6%be%e5%ad%90%e3%81%ae%e7%a9%ba%e8%a5%b2%e4%bd%93%e9%a8%93%e8%a8%98/

写真5.8 東雲キャナルコート(旧三菱製鋼)、辰巳運河側からの眺め。 2023.01.08

 本図録では、企画展にはなかった「撮影日録」を、各体験記の風景録ごとに、書き下ろしました。「撮影日録」とは。撮影者の立場から、その日の足取り、撮影のフレームを決めていくプロセスを、書き留めたメモのようなものです。
 
 写真はフレームの「内部」を客観的に写すメディアですが、「何を」フレームに収めるかの判断は、主観にまみれています。現場に立ち、カメラ越しに風景を見ていると、本当に様々な思いが去来します。そうした感情、感覚のすべてが、風景のカッティングに影響します。
 そこで、「撮影日録」では、風景選定の材料にした「客観」のデータと、撮影者の手に影響を与える「主観」の要素を、あえて正直に書き留めました。
 
 例えば、こんなふうに。
 東雲キャナルコートCODANは、建築家・山本理顕がデザインアドバイザーを務めた建築史に残る施設である。そこでは、住宅をできるだけ「外に開いていく」ことがテーマになった。
 「しかしそれでもやはり、巨大な再開発空間に身を置くと、過去の痕跡を感じとるのは難しく、現在の便利さや快適さに感覚が飲み込まれてしまうのを感じる。片岡さんが「チーちゃん」という同僚の名を刻んだように、空間を更新しながら、そこで起きた出来事を深く感じとれるようなまちづくりは、できないだろうか?」
 
 撮影者は、このような惑いのなかで、風景をカットしました。
 そこには何が写っていて、何はフレームの外に置かれたのか。撮影者の「主観」を「客観」化することで、解釈の助けにしようする試みです。
 
 キャプションに撮影者の「主観」を込めるという方法、実は東日本大震災後、気仙沼・リアスアーク美術館の災害展示の手法を参考にしています。
 学芸員の山内宏泰さんは、「震災以前のまち」の「最後の姿」を残すことに関心を定め、視覚的なインパクトとは疎遠な「跡地」の風景を、フォローします。キャプションには、撮影者のその時の「感覚・思考」を伝える文章が添えられました。今見るとそれは、生活者の感覚とそれを知らない観客のギャップを埋める、有効な手助けになっていると感じます。
https://rias-ark.sakura.ne.jp/2/sinsai/

 「撮影日録」は、山内さんが気仙沼の被災現場で編み出した手法を、空襲から78年後の「被災跡地」に置き換え、再解釈して引き継ぐものです。
 「空襲体験記の風景展示」のメイキングについて、「解説」の第1節「メイキング・オブ・「空襲体験記の風景展示」」で解説しました。
 よろしければ、ご一読を。
https://jifukei.wordpress.com/2023/08/02/%ef%bc%bb%e8%a7%a3%e8%aa%ac%ef%bc%bd%e5%ad%97-%e9%a2%a8%e6%99%af%e3%82%92%e8%aa%ad%e3%82%80%e2%80%95%e7%a9%ba%e8%a5%b2%e4%bd%93%e9%a8%93%e8%a8%98%e3%81%ae%e9%a2%a8%e6%99%af%e5%b1%95%e7%a4%ba%e3%81%ab/
 
 このたび、ウエブ公開した図録。「風景写真」と「体験記の引用」をセットで31点、掲載しました。東京を歩きなおす感覚で、ご覧いただければ幸いです。
https://jifukei.wordpress.com/

#字の風景録

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