なぜ沖縄自民は死んだのか?~権力に翻弄されネトウヨに縋った者達の末路~

 まず、世界史的に見て権力が一番滅びやすいのは、住民の権利を奪った時なんですよ。まあ少し考えれば分かりますよね。自分達の為に働くという前提で大きな力を託しているのに、その権力側は自分達に不利益、危害をもたらすようになればその求心力、信頼は一瞬で地に堕ちます。政治家が一番敏感なのは情勢でも法律でもましてや公約などではなく、権力です。こうしたことから権力が消え去るリスクは最大限に避けるはずで、そういう意味では政治家の行動予測はある種立てやすい所があるんです。
 だからこそ、今回の県民投票の実施拒否を決断した5市長及び市会議員が異質に映るわけです。テレビや新聞、ネットで「今日は県民投票です」という話を聞く、ああそうかじゃあ行ってみようとしても投票の権利がない。そしてなぜうちの町ではやらないのかと調べたら市長が拒否した。「他はやってるのに、なんでこの市だけ」となって、不信感は市長と自民に向かいます。5市長の多くは任期を多く残しているのですぐ忘れるからと思っているかもしれませんが、今年の参院選、来年の県議会選と、全県レベルの選挙が続く以上、自民には計り知れない影響があるでしょう。そして市長達に関しても、これはオール沖縄側の候補者にもよりますが、相当厳しい戦いを強いられるはずです。その理由を理解するためには、まずはなぜ今まで自民が勝ててきたかを知る必要があります。
 オール沖縄は結成以来、全県選挙を衆院選2回、参院選1回、知事選2回、県議会選1回と経験してきましたが、負けたのは2017年衆院選の沖縄4区のみです。全県レベルになるとほぼ負けないのですが、一時期は衰退が右派系新聞により盛んに喧伝されていました。それは市長選レベルではこれまでの勢いが打って変わって全く勝てなくなっていたからです。
 その理由は様々あると思われます。沖縄問わず地方の閉鎖的な関係性の中の地縁血縁を中心とした選挙、自民のこれまでの信頼。その中でも一番大きかったのは、「政府」対「沖縄」ではなく「沖縄」対「沖縄」という構図だったことでしょう。よく日本共産党が地方選で「安倍政権の退場」だったり「憲法を守ろう」と訴えていますが、反安倍層、護憲層の票をまとめ切れているとはいいがたいです。それは地方には地方の課題、国政には国政の課題があると有権者が分かっているからで、辺野古から遠く離れた場所(特に宮古 石垣)で移設反対を訴えても響くわけがなく、かと言って訴えなければ結局現職の信任投票となり、何か大きなことをやらかしていなければ現職が圧倒的有利となります。ただ全県選挙になれば否応なしに辺野古が争点になり、相手がウチナーではなくオスプレイや基地を押し付ける政府になり、オール沖縄が有利に戦いを進められることになります。なので、自民系首長からすれば、たとえ多くの市民が移設に反対してようとその怒りが自分に向かない限りは自分の選挙をそこまで心配しなくてもいいのです。
 ただ、今回5市長は県民投票の参加を拒否し、多くの住民の権利を奪いました。その行為の不当性については他の多くの方のコメントに譲るとして、これによって市長が当選を重ねてきた基盤が崩壊したことも、上のことを理解いただければすぐわかってもらえるでしょう。誤解を恐れずに言えば石垣や宮古からすれば辺野古問題はそこまで生活に関わることではありません。うるまと沖縄市も辺野古と普天間が立地していないため市長選レベルでそこまで大きなテーマになることはなかったのです。が、こうして住民の権利を奪ったことによって、オール沖縄側からすれば市長を「権利を奪った住民の敵」と位置付けることができ、「沖縄」対「政府」と似た構図に持ち込むことが出来るわけです。実際、丁度一年前には3期務めうち2回は無投票で再選されていた現職南城市長が僅差でオール沖縄候補に敗れました。いくらこれまで盤石に勝利を重ねていたとしても、オール沖縄の型に持ち込まれれば呆気なく敗北する可能性は高いといえます。

 ではどうしてそのような自らの首を絞めるようなことをしているのか全く私は分からず、恐らくそれはこの問題に関わった議員や市民の方々も同じ気持ちだろうと思います。憲法違反とか義務違反と言うより、どうしてわざわざ選挙で不利になる方にわざわざ向かおうとしているのか。その裏で宮崎政久衆院議員が動いていたことが明らかになりましたが、どうやら彼も参加した県民投票に反対する集会ではあの有名な我那覇真子さんも出席されいたようで、ここで右派系市民団体との自民党の接点が浮かび上がってきます。
 ネトウヨと言えば自民党躍進を支えている存在、と思われるかもしれませんが、彼らをより強固な支持基盤としていた政党「日本のこころ」はいつの間にかなくなり、沖縄県知事選の佐喜真氏敗北の原因もネトウヨによるネットの誹謗中傷が逆に足を引っ張ったからという自民関係者の嘆きも新聞に掲載されていました。つまり、ネトウヨって決して選挙でいい影響を与えるわけじゃないということです。先程の南城市長も反基地運動に対するネトウヨ発信のデマをSNSに載せたことが後々の敗北に繋がりました。そもそも沖縄デマはここ数年ずっとひどく、その中でも県民はデマに晒され続ける翁長知事を支持してきました。(翁長氏死去後の評価を問う調査では、8割近くの人がその手腕を評価しています)そんなデマ耐性とデマへの嫌悪感が強いウチナーの票を集めるためにネトウヨと手を組むというのは普通からすれば考えられないことなんですが、沖縄自民と自民系首長は半ば公然と手を組んでいるわけです。

 沖縄は基地問題を巡って長年保革対立が続き、反基地運動の盛り上がりに従い自民系も先鋭化してネトウヨと手を組むようになった、というのが政治通の皆さんの解釈でしょう。それはある種では正しいと思うのですが、そう簡単な話でもないんです。
 理由は後述しますが、私は2018年の那覇市長選の時に沖縄自民は死んだと思いました。彼らが玉城県政の脅威になることはほぼないだろうと。ただ、その予想は県民投票の妨害と言う一番嫌な形であたってしまい(捨て身の妨害と言う意味では確かに脅威になってるかもしれないので外れと言えるかもしれません)、沖縄自民がまともな判断能力を失っているということを証明しました。今の状況はいわば県民を巻き込んだ自民の壮大な自殺みたいなもんです。迷惑ですね、はい。
 さかのぼれば、昔の沖縄自民はずっとまともでした。1996年の県民投票の際は、自民は棄権を呼びかけたものの今回のような投票拒否自体はありませんでした。時代は進んで2013年には県下41市町村全ての連名で「オスプレイ配備撤回の建白書」が安倍総理に提出され、その中には勿論今回拒否した5市も含まれ、なんと松川宜野湾市長を除く4市長はその当時も市長を務めていたんです。この建白書は普天間基地の県内移設断念を求めており、この時の建白書とそれにともなう東京での活動がオール沖縄の基礎となりました。

 2013年時点では、ネトウヨと5市市長、そして沖縄自民は全く相いれない立場だったことが分かっていただけると思います。ではなぜこうなってしまったのか。大きなきっかけは、平成の琉球処分とも言われた有名な自民県連の移設容認への転換の会見でしょう。これで沖縄自民は移設容認に舵を切り、それに反対した翁長雄志氏や仲里正信氏など自民の重鎮は離党しオール沖縄として自民に立ちはだかるようになります。
 そこから2015年に保守系首長によるチーム沖縄が結成され、明確にオール沖縄と対立するようになったことからオール沖縄のあらさがしをしているネトウヨに市長たちは近づいていきます。ネトウヨと市長たちとの関係は調べればどんどん出てくるので多くは語りませんが、「一般社団法人 日本沖縄政策研究フォーラム」のyoutubeチャンネルを見ていただければすぐわかります。だって、チャンネルのページの動画見ていたらネトウヨ丸出しのサムネとタイトルの動画の中に「オール沖縄の建白書は真っ赤な嘘!9市町村による翁長雄志への公開質問」という動画があって、サムネがあの佐喜真前宜野湾市長なんですよね。この動画が2014年11月公開なので、この時点では既にどっぷりの関係だったと見て間違いないでしょう。この動画で佐喜真さんが「翁長氏とは心を一つにしない」と明言している癖によく知事選で翁長氏を評価するとか言ってましたね。動画残ってますよ。
 で、そこから自民党は辺野古を争点にしない戦略により重要だった宜野湾と名護市長選をとり、一気に知事選へと向かうわけです。その中で翁長知事が急死し、その後の展開は皆様の知る通りです。そして知事選、豊見城市長選敗北後、那覇市長選の最中にもかかわらず政府は辺野古への土砂投入を決定、こうして沖縄自民はついに必死に縋っていた政府からも見放され、大差で敗れることとなりました。チーム沖縄が名目上国からの振興金の確保を目的としていることからもチーム沖縄及び沖縄自民にとって政府から裏切られることがどれだけの衝撃だったかは察するに余りあり、それに加えて県連会長である国場衆院議員の醜聞スキャンダル発覚により会長交代と立て直す核となる人物さえいない状況となっています。縋るものがなくなった以上沖縄自民は死んだも同然と思っていた理由はそこにあるのですが、崩壊した自民は県民投票条例の審議で質の悪い誘導である賛成2反対1中立1の四択を提案し、一蹴されると今度は予算拒否を指南して選択肢変更するよう脅しにはいり、その中で宮古島市長は世論調査の概念を理解していないことがばれ、沖縄市長は30人のライングループで投票賛成がいなかったことを理由に挙げ、うるま市長は学問的に問題のある4択を協力の条件として求めるなどそれぞれの愚かさと馬鹿さを思う存分県民に見せつけてくれました。そして全県実施を求める元山代表が行ったハンストにはネトウヨが人とは思えないリプを送り付け、石垣市長も批判的なツイートをしているわけです。
 今の沖縄自民は縋るべき政府にも見放され、翁長氏などの歴史を知る百戦錬磨のベテランも去り、もう肯定してくれる存在がネトウヨくらいしかいないんですね。宮崎議員も含め必死に政権に忠誠を誓っているようですが、それがかえって自民党自体の首を絞めていることすら気づかない状態、まさに自殺ですよ。国政選挙になればましな候補が出てくるかと思えば3区補選には島尻氏、そして参院選は知事選出馬を断念した安里氏という有様。みてて痛々しい、そして県民投票妨害という形で痛みが県民に降りかかってるんだからたまったもんじゃない。

 ここまでで自民がどこからおかしくなったのかは語りましたが、まだ言い足りない部分があります。それは、私がこうして夜中の3時近くに記事を書いている理由です。ある動画と記事を見て、涙を流しながら「これか!」と今の沖縄を巡る状況に納得がいったので、是非見て欲しいんですよ。
 リンクを貼るよりいろんな視点からの動画を見た方が分かりやすいと思うので、「東京行動 オスプレイ」で検索してください。するとトップ辺りに新聞社があげた動画と在特会系が上げた動画が表示されるはずです。正直胸糞悪くなるので体調がすぐれない方は見ない方がいいですが、これをきっかけに沖縄の政治史は変わったといえるほど重要なイベントなので、個人的には是非映像で追体験してほしいです。この時の自称愛国者からの心無いヤジについては翁長さん自身が後に語っていて、「戦う民意」(角川書店、翁長雄志)で読むことが出来ます。その時の行進には実は自民党の県内選出議員も参加していたと照屋衆院議員がブログで記載しており、今は辺野古賛成派のその議員も沖縄へのとんでもないヘイトスピーチの場に遭遇していたことになるわけです。
 当たり前ですが、オスプレイ反対のデモ行進の場で翁長さん達を罵倒した勢力は自民党に派遣されたわけではありません。この時那覇市長として上記の建白書を翁長さんは安倍総理に手渡していますが、この時の総理の対応も今よりずっとまともでした。(嘘か本当か、「私にも思う所がある」と言ったそうです。今はそれすらも言わないでしょうけど)つまりまあネトウヨの暴走なわけですが、今の沖縄自民はあの時ヘイトを浴びせた側と手を組み、そっち側に行っちゃったわけです。沖縄に汚い罵声を浴びせた側に回って、そしてそれ以外の仲間がみんないなくなっちゃったゆえに今回の暴走が起きたといえます。もうはっきり言えば、沖縄の敵に回ったんです。あの時罵声を浴びせられた自民議員はこの状況をどう思っているでしょうか。葛藤を抱える心がまだ残っていることを願わずにはいられません。

 最後に、これは他府県の方々からすれば他人事かと思うかもしれませんが、自民が選挙で野党にズタボロに負け、党勢回復のためにネトウヨに本格的に魂を売り始めれば沖縄みたいなことが全国で起きる可能性があります。私は沖縄はこれからの日本や世界を映す場所だと思っているので、ここで起きたうねりは遠くない将来日本全国に広がるでしょう。実際、県知事選後世論は大きく変わりました。前の参院選では与党と野党第一党が辺野古移設推進で、一年前すら野党第一党は明確に反対していませんでした。そこから移設反対が全国規模の調査でも50パーセントを超え反対を20ポイント近く上回るようになり、りゅうちぇるやローラ、坂本龍一に宮崎駿、さらにはクイーンのメイまでが反対の署名への協力を呼び掛けてくれました。これは本当に考えられない程の進歩で、間違いなく状況はいい方向に向かっています。あの行進の時は沖縄はマイノリティとしての行動でしたが、いまは移設反対はマジョリティなんです。翁長知事が命がけで戦ったことにより状況が世論と言う意味ではひっくり返ったわけです。
 選挙においても、翁長知事は今の野党共闘のモデルを作りました。あの自公連立のきっかけを作ったのが自民県連幹事長時代の翁長さんだったことは有名ですが、彼は地域中心の反政権系保守+革新勢力と言う新しい共闘モデルを確立し、それは今白熱の展開となっている山梨知事選にも一部引き継がれています。
 これまでの例でいかに沖縄に注目することが重要か分かっていただけたと思います。沖縄は日本の数年後の姿です。だからこそ、私は自民党自体が今の沖縄自民のようなゾンビみたいな不気味かつ腐った存在にならないか、存廃でなりません。別にそれは支持しているからではなくて、そのゾンビが襲うのは国民(住民)自身だからです。
 だからこそ、良識ある自民議員は今こそ立ち上がる時です。別に政権批判する必要はない。ただ、「投票の機会はみんなで守ろう」と言ってください。それだけで沖縄と日本の未来は随分と明るいものになるはずです。


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