見出し画像

ローカル美容院で聞いた怖い話

この時の話を忘れないうちに。


私が怪談を集めているのだと言うと、美容師のNさんは「これって怪談なのか分からないんだけど」と、幼い頃に近所にいたとあるおばあさんの話を聞かせてくれた。

おばあさんは夫に先立たれ、広い家に一人で住んでいたそうだ。当時は現代と違って近所付き合いというものが大切にされていた時代だ。地域の皆で一人暮らしのおばあさんを世話していた。Nさんもよく家族と一緒に訪ねていた。

そのおばあさんが、時々奇妙な行動をしていたという。どんな行動かというと、ぽかんと口を開けたまま何もないところをじっと見ている。誰かが声をかけても全く反応しない。ただ静かに何かを見つめている。しばらくそうしていたかと思えば、突然何かを大声で喚きたて、ふっと意識がなくなる。そして30分もすればぱちりと目を覚ます。ところがおばあさんは何も覚えていない。

Nさんも喚くおばあさんを見たことがあるそうだが、何を言っているのか全然聞き取れなかったそうだ。

「あとで分かったんだけど、それ、ヒンディー語だったみたい」

なぜ遠く離れた国の言葉を話せるのか。おばあさん自身、外国どころか生まれ育った村から出たことすらない。インド人の知り合いもいない。結局真相は分からずじまいだそうだ。

不思議な話を聞けて喜んでいる私に、Nさんは「一番怖かったのはおばあさんの顔かな。そんな風になる日は必ず厚化粧してたんだよね」と教えてくれた。白粉を塗りたくった真っ白な顔に紫がかったピンク色の唇。Nさんにはそれがとんでもなく恐ろしい異形の怪物に見えていたという。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?