ウロボロスの滾(たぎ)り

 予想通りに【奴】が来たことを、俺はゆるキャラ着ぐるみの中からそっと確認した。
 折しも繁華街に正午のチャイムの音が響く。
 人出はそれなりにあるが身動きが取れぬ程ではなく、これなら
「わー、『へびさぶろー』だー!」
 ゆるキャラ目当てで子供が一人近づいてきた。
 俺は平静を装うと、普通のバイトのように風船を一つ手渡し、ついでに頭を撫でてやった。
 【奴】がすぐ脇を通り過ぎる。両側二人の女の肩に手を回し、見慣れた軽薄な笑顔を浮かべながら。
 俺は地面を蹴る。残りの風船が空に飛んでいく。
 懐から拳銃を取り出し、ゼロ距離から隙だらけの背中に銃弾を叩き込んだ。
 銃声が響き、遅れて隣の女たちの悲鳴。
 崩れ落ちていく背中に向けて更に二発、三発、四発、五

◇ZAP◇

 【奴】が来たことを俺はゆるキャラ着ぐるみの中から見ていた。
 折しも繁華街に正午のチャイムの音が響く。
「わー、『へびさぶろー』だー!」
 ゆるキャラ目当てで子供が一人近づいてきた。
(『また』か……!!!)
 俺は何とか平静を装おうとして手が滑り、風船は無慈悲に空に飛んでいってしまった。
 子供が泣きそうな顔をする。
 そして気がついたときには、【奴】が獰猛な笑みを浮かべて俺の懐に猛烈なタックルを仕掛けていた。
「グワーッ!」
 居酒屋チェーン店の看板に叩きつけられる。
「舐めた真似しやがったのはてめえかっ!!」
 間髪入れずにボディブローを叩き込まれる。
「グワーッ!」
 衝撃で懐の拳銃が地面に落ちる。
 子供が泣きわめく。女の悲鳴が上がる。
「ツラ見せろ!」
 着ぐるみごと顔面を殴り飛ばされ、衝撃で頭部が弾け飛んだ。
 俺と奴の目と目が合う。
「てめえ……」
「よう」
 俺から話すことは何もない。今更だ。こいつは、殺す。ここで。今度こそ。なんとしても!妹の仇!
 頭突きを鼻っ柱に叩きつける!
「グワーッ!」
 もう一撃!
「舐めんな!」
 奴も頭突きを繰り出し、額と額が火花を散らす。
 気が飛びそうになるのを堪えて、もう一撃!
【続く】

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