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ニンジャスレイヤーを「デッド・バレット・アレステッド・ブッダ」から解析して読み始める

まず最初に断っておこう。今から紹介するエピソードは、初心者向きではないと言われている。なぜなら冒頭から刺激が強すぎるからだ。さながらアルコール度数の高い、旨いがきつめの酒である。
だが、それは裏を返せばニンジャスレイヤーという作品の、悪く言うなら取っつきの悪い所がよく出ている話ということでもある。そこでこの話を、水で割りながらちびちびと味わって飲むがごとく、少しずつ噛み砕いて読み始めることで欠点を克服し、確かな足取りをもって深奥にある普遍的な面白さにたどり着こうという試みである。
大丈夫、一歩歩みを進められるなら二歩目はそう難くはない。

早速1ツイート目から見ていこう。

ネオサイタマで緊急事態が発生した。ブッダを逮捕したと主張する男がコケシモールに立てこもり、日本政府に対して3億円の身代金とオキナワ高飛び用のジャンボジェット機を要求したのだ。 1

おっと、バックキーやタブの閉じるボタンをクリックするのはちょっと待ってくれないか。

面食らうのはよく分かる。筆者も最初面食らったし今読み返しても面食らう。だがそれはなぜだろうか?
見て、そして考えてみよう。
文章を単語へと分解していくと、一つ一つは割と見知った日本語の単語で構成されていることが分かるだろう。
カタカナのワードは5つ。そのうち3つ、ネオサイタマ、コケシモール、オキナワは文脈から地名または建物を表すものだと推測できる。残りの2つは日本語としても一般的なものだ。ブッダは仏教の開祖のことであり、ジャンボジェット機は平たく言えばでっかい飛行機だ。
異常なのは『ブッダを逮捕した』という文脈(コンテクスト)である。遙か昔の偉人ないし今では神様のような存在を、逮捕なのだ。いったいこれは何なのか。何が起きているのか。確かめるには、ページを捲る(ツイートを手繰る)以外の選択はない。
そしてこの異常なコンテクストは、ニンジャスレイヤーという作品でしばしば使われる手法である。我々の脳内でまず結びついていない別々の領域に独立存在する複数のワードが、物語の力によって強引ながらさも初めからそうであったようにバインドされ、普段想定していない脳の回路が混乱と共に刺激される。それはさながら、記憶を無秩序にシャッフルする夢見心地か、アルコールによる深い酩酊の先に見える蜃気楼めいた真理か。夢の中では人はどこまでも高く飛んでいける。
さて、このコンテクスト、実は手法はそれほど特殊なものではない。三題噺という言葉をご存じだろうか。観客から無作為かつ出鱈目に提供された三つのお題を元に、即興で一つの話を作り上げることである。お題の間に関連性がなければないほど、(作成難易度は上がるだろうが)語り部はあなたの知らない意外な物語を展開していく。
ブッダ、逮捕、3億円。想像力をかき立てられる並びに見えてこないだろうか。
だが作者はそれだけでは飽きたらず、さらなる物量を持って読者を圧倒しにくる。

続いて2ツイート目も見ていこう。

「…男の主張によると、恥知らずのブッダは日本を見捨て新幹線でキョート亡命を企てていたと…」重金属酸性雨の中を泳ぐツェッペリン群からサイコパス主張の中継放送。センシティヴ問題に発展することを懸念したNSPDが手をこまねく中、カネの臭いを嗅ぎつけたアウトローたちが行動を開始した。 2

「」書きは地の文の説明通りサイコパスな主張なので、あまり真に受ける必要はない。狂気の醸し出す一種の快楽だけをほんの少し嘗めて、ステップを踏むように受け流してゆこう。
あなたはツェッペリン(独語、Zeppelin)が何か知らないかもしれないが、雨の中を泳ぐとあることから、少なくとも空を飛ぶ物であることが文脈から推測できる。
またはセンシティヴ(英語、sensitive)が何か知らないかもしれないが、後に懸念と続くことから、何か懸念するような事柄に類するものであると推測できる。
このように、外国語を音のままカタカナ表記で訳してくることが多々あるが、大概は前後の文脈からだいたいの意味は想像できる。何も恐れることはない。少し周りを観察してみれば良いだけのことだ。先に進んで違和感が出てきたらちょっと戻って読み返してみれば良いし(これは小説だ)、最近はカタカナ語でもそのままインターネット検索すれば意味はすぐに出てくる。
筆者はむしろ日本語の漢字が意味はだいたい想像つくが読みが分からなくて辞書を頼ることが時々ある。最近では胡乱(うろん)はすっかり読めるようになった。

さて、この調子で進めていくといくら行数があっても足りないので(ああ、ニンジャ・プレゼンコンの〆切も間近だ)、全体的な解説に移ろう。2ツイート目の最後に、このエピソードの主人公たちに当たるものが提示されている。カネ(お金)を求めるアウトロー(無法者)である。
お題の一つは特異ながら、話としてはシンプルなのだ。アウトローと言えば欲深くその行動原理は基本的に金目当てであり、彼らはブッダ誘拐犯に支払われるはずの3億円の身代金に目を付け、行動に移す(一人だけ例外がいるが読み進めていけばすぐに分かる)。
だが一筋縄でいくはずもない。そもそも狂気の沙汰としか形容しようがないブッダ誘拐犯にどうして身代金が支払われるのか。このおかしな状況を利用しようと考えた悪の組織。派遣される邪悪なニンジャ(一種の超人)。彼の手によってコケシモール(ショッピングモール)にいた市井の人々はことごとく尖兵たるズンビー(ゾンビ)に変えられ、血と死臭を放ちながらアウトローたちの前に立ちふさがる。
死は狂気を呼び、狂気は狂気を呼び、それに少しでも触れた者はたとえどんな者であろうと完全な正気は保てない。神話の中の存在のニンジャを目の前にすればなおさらだ。あらゆる登場人物が狂気の熱に浮かされ、だがそれでもなお、全員が全員シリアスなのだ。
狂気であれど本気でもあり、誰もが己の目的に真摯であり、弾丸と脱穀機で理不尽な困難に立ち向かうのだ。それができぬ者は容赦なく殺され、そうでない者にもニンジャは容赦なく死をもたらし、動く死人がインクリメント(+1)する。
その邪悪なニンジャすら、最悪の災厄めいて乱入してくるニンジャスレイヤー(我らが主人公だがこのエピソードでは舞台装置めいた役割)に対し、最後には文字通り命を賭した戦いを選択する。
誰が生き残るのか。3億円は誰の手に渡るのか。人質のブッダの行く末は。本物のブッダなのか、狂人の心の中にプリントアウトされた偽者なのか、あるいは50%の確率でその両者なのか。
強すぎる狂気は、信仰とは何であるかという深遠な問いすら読者に突きつける。だが答えは語られず、我々はすべての結末を見届けて、なお思索するより 他はない。

さあ、あなたも見届けよう。
デッド・バレット・アレステッド・ブッダ #1 (Togetterまとめ)

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ニンジャや勇者やプログラミングなどを徒然する予定。