人は声から忘れていく

人は人の記憶を、声から忘れていくのだと聞いたことがある。たしかに思い当たるのだ。私は母の声をもう忘れている。知らないに近い。

私の感覚的には、それは「声」に限るものであって、聴覚の持つ力は信じている。音楽が好きだからだ。音楽の持つ力は凄い。私に曲が作れたらな、と思ってしまう。生み出す能力が、喉から手が出るほど欲しい。万物に無気力な私をそうさせるほど、音楽はとにかくもう凄いんだ。

たとえば部屋を掃除するときに無印良品の店内BGMを流してみる。あのディフューザーから吹き出すアロマの香りを一気に感じるだろう。

ひらがなの「ん」の頬をめいっぱいひっぱったような線を、床に落ちていたチラシの裏に試し書いてみる。すると私の机はかの文具コーナーに生まれ変わるのだ。うっかり梅シロップなどを作り、ていねいな暮らしをしてしまいそうになる。

たとえば食事をするときにnulbarichを流してみる。ただのインスタントがやけに洒落て見える。超、チルい。友人といるときにやっちゃったら、もう言わなくていいことまで喋っちゃうぞ。星の下、薪を焚べてその火を囲みながら話すような、そんな空気になるのだ。星なんて見えないのに。そんななか飲むホットサングリア、想像するだけで喉が鳴る。もはや唸りだ。

ためしに寝る前にSuchmosを流してみようああそれはダメです、もうそれは深夜の高速道路。走り出してしまうので、できれば久石譲とかがいいと思います。

とにかくもう、音楽はすごいんだ!

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