✧08「お砂糖とミルクをいれるのはあなた」
ドクター、あなたってけっこう、わがままよね
しかも、しろねこのこと大好きでしょう
ふふ、ふふ
今日のほしぞらラジオでは、顔の見えないあなたについておはなしするわ。
おやすみの惑星より、しろねこがお送りします。
そう。お便りはなしよ。この星がずっと夜であるように、彗星にも星空の時間は必要なの。
ところで、あなたは電波を使って、遠くの誰かに声をとどけたことはあるかしら。しろねこは、あるわ。ほしぞらラジオがその例として挙げられるの。
しろねこはときどき、ラジオの表紙にしろねこの写真を飾るわ。青色のきらきらがその目印。でも、しろねこはあなたの顔をしらない。あなたはしろねこのことを知っているのにね。
電波をつなげて、結んで、言葉と音でつながるだけ
なんてつめたい世の中!
しろねこなら泣いて逃げ出してしまう
それでも、ここまで長く続けられたのはなぜかしら。そう、そう、あなたもわかるって顔をしているの、なんとなくわかるの。
世界がやさしさで満ちていたからよ。きっと、
空虚なやさしさよ
どんな状態でも、許してきたの。まぁいいや、仕方ないって諦めてきたの。
しろねこにとって、透明な窓にうつる言葉と、非表示にした音だけでつながる世界はとっても退屈で、とってもとっても楽だわ。
いつまでも寝ていたって、許されるもの。
会えなくて、触れられなくて、話している相手がいるのかいないのかわからないもの。
まるで、幻覚にはなしかけるドクターみたいね。気がついたら虚空を見ておしゃべりしてるわ
なんだか、味気なくて 、
ところが! そんな甘い夢ももうすぐ終わるの!
なんてこと
そう考えると、堕落した生活に慣れてしまって、元のすがたに戻れなくなってしまっていることに気がつくの。夢から醒めたくないと思っている自分に、気がついてしまうの!
これまでの日々が、赤のキングがみていた夢だったことを知って嘆きながら、あなたは鞄を手に持つの。そして「いってきます」の言葉といっしょに、箱の中で揺られるわ。そこから始まるのは、夢からさめたあなたの、冴えない日常。くりかえし、くりかえし、くりかえしているような幻覚のような本当。
さめなければよかったわね。
けれど、ほしぞらラジオ局はこれまであなたに、「自分をみつける方法」と「あなたのすきなもの」についておはなししてきたわ。
あなたは夢の中で、なんにもしていなかったわけじゃないの。
繰り返した平凡な日々に、あまいお砂糖をかけましょう
積み重ねた思い出って案外、味方をしてくれるものなの。
ミルクとお砂糖をかさねたカフェ・ラテに頼らなくても、あなたが前を見て歩けるように。
そのきっかけをくれた日々だったとでも思えばいいわ。しろねこは、退屈で楽でおかしな夢が無駄だったとは思わない。
あなたのすきなように、生きてやりましょう。
今日はたくさんおはなししたの。
今度はドクターもいっしょにおはなししましょう。
まあ、ドクターはしろねこより宇宙船に夢中なようだけれど。あとで、ココアをいれてもらうわ。
ラジオのお相手は、しろねこでした。
ドクターならこう言うわ。
おやすみなさい。
明日も夜を続けましょう。