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何も言ってない

ぼくはしがないフリーターだ。
あぶく銭集めて買ったスーパーのチーズケーキにありつくフリーターを、嘲る女子大学生。
彼女に、大人の魅力を感じて惚れ込む男子高校生。
彼をこき下ろすみたいに使うエライ人。
苛立つエライ人が撒き散らす火の粉がこっちまで飛んできて、レアだったものがベイクドチーズケーキ。
それを食べながら、てきとうなビートに乗る。

誰しもが互いを舐め合っていて、ちょっぴりふざけあっている。いいじゃないか、茶番なくらいが。
何かにつけて、まるで最も大事なことのようにいうけれど、それらのほとんどは当然最も大事なことではない。ちょっとしたことのために一喜一憂するのだ。それらしい御託を並べたりもする。
それの本質って、言いたいだけの気持ちの集合体。
ベッドの中で思い出すほどに大切なことなんてない。言い放った側にとっちゃ特に。

「仕組み」の中は往々にしてそんなふう。
サスティーンの長いオルガンに涙して、心をかき乱すほど情熱的なギターソロに湧きあがって、
そういった快楽すら日々の摩耗に耐えうるカラダをつくるための循環の一部でしかない。

かなしく聞こえるか?
そんなんじゃない。
何がぼくたちをそうまでさせる?
回り続ける車輪を目で追いきってやろうと、己の動体視力を試すんだけど、二秒くらいでポイントを見失ってしまった。
面倒になって見つめるのを諦めたら、やれチェーンが外れただの、鋲を踏んでパンクしただの。動作不能になってはじめてポイントと再開する。動かないか、高速回転しているか、ゼロかヒャクか、それしかない。本質なんてわかっているような、わかっちゃいないような。なんつーか、あやふやな存在。

ただしかし、
なんといってもぜんぶ、愛のための原動力。

良いんだ、それこそが。
それに伴う過ちがあって、言いたいだけの誰かに言われてしまった言葉に傷つくなんてのは勿体ない。
はじめからぼくたちは素敵だったりする。

鳴り止まない電話が鳴り止んだのは、社会から排除された合図かもしれない。
しょっちゅう会っていた人に会わなくなったのは、過去と離別した証拠かもしれない。
他人の喧嘩を無視するようになったのは、ただでさえ忙しない毎日の産物かもしれない。

不器用なぼくたちはまた笑える。
まだどこかで笑っていられると思った。

何を言っているかわからないと思うけど、
そう、何も言ってないよ、おれは。

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