散ル咲クわらう花 衣装屋としての振り返り

初演は7年前、当時私はまだ社会人になりたての20歳で、劇団怪獣無法地帯さんでは初めての衣装スタッフでした。補佐という形で入り、メインの衣装さんに付いて多くのことを学ばせていただいた公演でもありました。服飾の専門学校を出て当時は洋服の直しや仕立ての仕事をしていましたが、和装については着付けも扱いも学んでこなかった私にとって、それはとても貴重な機会でした。

初演を終えてから度々、演出のしょうこさんや白雪役の琴江さんと、散ル咲クわらう花の再演についてお話ししていたので、今回の依頼が来た時は「ついに...!」という気持ちで、不安と期待が入り混じっていたのを覚えています。

初演時は衣装が二人いるにも関わらず、それぞれが舞台裏を走り回るほど忙しかった作品。今回、衣装スタッフとしては私一人でしたが、劇団怪獣無法地帯メンバーや出演者の皆様には沢山のご協力を頂きました。本当にありがとうございます。

メインである秋山とお人形さんたちの衣装について少し。

まずは一番早替えの多かった秋山。現代服→書生風→着物・羽織→着流し→現代服へ戻るという流れで、特に最初の早替えでは3分弱の間に裏で着物と袴を着付けていたので本当に緊張しました。他の早替えは足達さん自身で着付けをして頂いたので、休む間が無かったと思います。でもおかげで、姿形の変わらない白雪に対し歳をとっていく秋山を衣装でも表現できて満足です。役者が変われば衣装も変わるということで、人形達との並びも意識し初演とは違う灰色を基調とした組み合わせ。いつの間にか本人にしっくりと馴染んでいて、見惚れるほど美しい和装姿でした。

主役である白雪の振袖は琴江さんの私物。長編でも短編再演でも、わらう花を演る時はいつもこの振袖です。可愛らしく鮮やかで、とても琴江さんに似合う振袖。(ちなみに、ねお里見八犬伝の伏姫も振袖を着ていますが、違うものを用意しています。)着物の場合小物は着物の柄から色を拾うことが多いですが、白雪は帯も帯揚げも帯締めもしごきも赤。お人形を意識した役だからこその組み合わせ。帯は文庫結びで、少女らしさを強く。人のようで人ではない、そんな白雪の可憐さと異質さが見た目からも感じ取れて、着付けながらどきりとしてしまう姿です。

一の人形桜貝の着物は、私の母が結納の際に着ていたもの。箱入り娘の小夜さんによく似合う、落ち着いた桜色に上品な柄。そこに、川面を思わせる銀の帯と水色の小物。桜貝の物語にこれ以上ぴったりな衣装はないと思います。帯結びは可愛らしいふくら雀。普段からお着物を着ることの多い亜矢さんが「小夜は一番きっちりと着物を着ているだろうから」と、着物を丁寧に着てくださって、帯の結びにも気合が入りました。そういう、その役の生活や背景が衣装に現れているというのを大切にしたい。

女郎である水鏡は、赤い襦袢に紫の着物。襦袢は前回と同じですが、帯と着物は変えました。鮮やかな紫に梅の文様が入った着物は、私が一目惚れしたもの。初演より少し大人びた印象が強くなった菖蒲に、雪の中で咲く忍耐力を持つ梅の花はよく似合う。人間である菖蒲と人形となった水鏡とでは帯の裏表を変えて着直していました。充子さんが演じる菖蒲と井上さんが演じる女衒の寄り添う姿は私の大好きなシーンで、とても切ないけれど美しい。飾り立てた印象のある菖蒲に対して女衒はラフな兵児帯というのもこだわりのポイントでした。

三場の揚羽蝶については、みおとまやという姉妹を合わせて語りたい。お人形の中で唯一初演とキャストが違うということもあり、衣装もすべて新しく揃えました。姉であるみおは落ち着いた紺色に鮮やかな橙の帯、妹のまやは可愛らしい水色に桃色の帯。色相をそのままに、濃度を変えたような色味の組み合わせ。姉妹間の愛情を強く感じるお話なので、並んだ時の印象はとても大切。姉が姉らしく、妹が妹らしく見える組み合わせになったと思います。劇中で帯を変えるシーンがあるので結びは貝の口、人形である揚羽蝶はそこに飾り帯と打掛がわりの黄色い着物。衣装と演技が直結していてなかなか苦労をかけてしまうこともあったかと思うのですが、麻美さんと梨恵さんの姉妹姿を見ることができてとても幸せでした。

他の役にも、黒子にも、それぞれ思い入れがあって、例えば旅芸人の一座のバランスだとか太夫のアイテムだとか萩原だけ洋装だとか黒子の羽織の柄だとか色々色々あるのですが、全部語ると夜が明けてしまうので控えます。

まだまだ反省点もありますが、まずは、大切な作品に関われたことへ感謝を。

今後も、作品の世界の中に生き、役者さん達をより魅力的に見せられる衣装屋でありたいと思います。またすぐに劇団怪獣無法地帯さんにお世話になる予定ですので宜しくお願いいたします。

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