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百人一首と韓国HIP-HOPのパンチライン

 百人一首の61番に次のような歌があります。

いにしへの奈良の都の八重桜、今日九重ににほひぬるかな。(伊勢大輔)
「昔の奈良の都の八重桜が、今日、九重(宮中)で色美しく咲いていることよ。」

(小田 2021: 191;太字は引用者による)

 「八重」と「九重」がどちらも数字も用いているところがおもしろいわけですが、さらに「奈良」に「七」をかけているとすれば、七→八→九となるようです (小田 2021: 192)。なかなかテクいですよね。

 韓国HIP-HOPの歌詞の中にも同じ構造を持つものがあり、ぱっと思いつくものでも2つあるので、紹介してみたいと思います。

 まず最初は、Masta Wu (feat. Dok2, BOBBY) の "이리와봐" の歌詞から、BOBBYの歌詞の一部を見てみます。

떴다 하면 음치 래퍼들의 까지
다 해 먹어 할 일 없이 너네는 까지
날 후배로 인정 말어 친한 척 가하지
꼬우면 실력으로 꺾어 가지
売れたと思ったら音痴ラッパーの仕事まで
全部かっさらう やることなくてお前らは陰口を叩くんだろ
後輩だとか思うなよ 親しいふりはご遠慮
癪なら実力で鼻っ柱を折ってみろよ

 この歌詞は漢数詞の 일, 이, 삼, 사 を利用しており、ちょうど上で引用した百人一首の歌のように数字を利用した歌詞になっています。
 1行目は (一) と (仕事)がかかっています。
 2行目は (二)と (歯)がかかっているものと思われます。「歯」の俗っぽい言い方に 이빨 があり、이빨을 까다 で「陰口を叩く、嘘をつく、虚勢を張る」のような意味で使われます。ここは数字を利用するために 이빨 ではなく 이 を使ったのでしょう。もう一つの可能性としては 이까지(これまで)もかけているかもしれません。もうお前らはここまでだ、ということですね。
 3行目は (三)と 가하다(遠慮する)がかかっています。
 4行目は (四)と、濃音ではありますが 가지(無礼な奴)がかかっています。
 
 ここで引用した部分以外もBOBBYの歌詞にはおもしろいラインがあるので、気になる方は見てみてください。


 次は 쇼미더머니10のセミファイナルで披露された 소코도모 (Feat. 팔로알토, lIlBOI) の "BE!" の中から、lIlBOIの歌詞を引用してみます。

모두가 A를 원할 때 I just wanna be me
그 결과를 봐 Now if you wanna see these
내 일상적인 단어를 16마디 안에 담아
그리고 증명하잖아 I made it look easy
See I don't give a F about
みんながAを望むとき I just wanna be me
その結果を見てみろ Now if you wanna see these
日常から来る単語を16小節の中に込め
そして証明してるだろ I made it look easy
See I don't give a F about

 この歌詞ではAからFまでがうまいこと配置されています。
 1行目のAはいいとして、次の beB とかかっているわけですね。
 2行目は see が C に、these がやや発音は違いますが D にかかっています。
 4行目では easy が E にかかっており、最後の F につながります。
 さきほどの数字とは違いますが、アルファベットを順番通りに並べており、類似した構造を持っています。

 릴보이 のラップ自体もめちゃくちゃいいので、ぜひ通しで聴いてみてください。


引用文献
小田勝 (2021)『百人一首で文法談義』大阪:和泉書院

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