しろくまさんと僕(3)
第3話「しろくまさんとお葬式」
僕の住んでいるクニでの葬儀はいわゆる土葬が多い。ケイサツカンの葬儀はアメリカ映画に出てくる警察や軍隊のような堅苦しさはなくて、身内の葬儀のようにカジュアルなものだ。僕を含めた関係者は静かに、棺に花をおいていく。
僕はとても悲しかったけど、同時にしろくまさんに怒ってもいた。さらに自分のことも責めてもいた。そんな葛藤を理解してか、同僚も先輩も葬儀では視線を合わせてうなずいたり、そっと肩をたたいたりするだけで、誰も僕には話しかけてこなかった。
その日はとてもよく晴れていた。背のひくい鉄柵で覆われた、芝生の広がる美しい墓地。白い墓石の前で署長の挨拶がはじまったころ、向こうの木陰からこちらをそわそわとうかがっている一匹のシロクマに気がついた。
毛並みといい、目鼻立ちといいしろくまさんによく似ている。でも、しろくまさんには身寄りがなかったはず。じっさい葬儀にはシロクマはひとりも来ていない。あれはどこのシロクマなのだろうかと気になって(気になっていなかったとしても)署長の話はあまり耳に入ってこなかった。
黙祷がおわり、目を上げると例のシロクマが別の木陰に移動していて、手招きをしていた。僕はキョロキョロと周りを見渡してから自分を指差して、ジェスチャーで僕なのか?と伝える。
そのシロクマときたら身振り手振りも、いよいよしろくまさんによく似ている。双子の兄弟とか?
僕は参列者をかき分けてシロクマの方へ向かう。周りのみんなの目には、悲しみに沈むパートナーが列を離れ、ひとりになりたがっているように映ったかもしれない。
「わるいわるい、葬儀の途中にじゃましちゃって」
僕は口をパクパクさせて声が出なくなった。なぜならそこにいたのは、間違いなくシンダはずのしろくまさんだったのだから。
「おどろかせてすまない。どうやら化けて出ちゃったみたいだ」
普通どのシロクマも見分けがつかないほどよく似ているけど、長年つれそったパートナーを見まちがうはずがない。しろくまさんは申し訳無さそうに、頭をカキカキしながら立っていた。
「なんてこった」
複雑な感情のせめぎあいの末、どうにかこうにか出てきた言葉がこんなセリフとは。
なんてこった!
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