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しろくまさんと僕(2)

第2話「しろくまさんと刑事」

廃工場での報告書をようやく署長に提出し終わりデスクに戻った僕は、かなりぐったりしてそのまま机の上に突っ伏した。銃撃戦からの3日間はとにかく忙しかった。

応援も待たずにしろくまさんと僕は犯人と銃撃戦をはじめたわけだし、挙句の果て犯人を撃って逮捕した。そのせいで、報告やら始末書に追われてもしかたがなかった。しかもその間に、大事な行事の予定が入ったりもした。それらがようやく一段落したのだった。

「だから、すまなかったって何度もあやまってるだろ?」

チラリと視線をむけると、向かいのデスクから体の大きなしろくまさんが身を乗り出してこう言った。

はっきりいって僕はしろくまさんに怒っていた。そりゃ、結果的に僕の命を助けてくれたことには違いないけど、あんなふうに自分の身を危険にさらすなんて無謀すぎる。まだ怒っていることをアピールするためしろくまさんを今朝からずっと無視している。

「犯人が銃を持っているとは思ってなかった。あれは完全に私の判断ミスだ。そんなことできみを死なせるわけにはいかないって思ったんだよ」

申し訳無さそうに、大きな体を椅子にちぢこめて僕のほうを申し訳無さそうにみる。

「おい、大変だったな」

ポンと肩を叩かれ、あわてて身を起こすと、デスクの脇にセンパイが立っていた。センパイは僕が刑事になりたてのころ、ずいぶんと世話になった先輩の一人だ。

「しろくまさんが…あんなことになるなんて残念だったな。オレは捜査で行けなかったがオマエ、葬儀には出たんだろ?」

僕がチラリとデスクの向こうのしろくまさんに目を向けるとしろくまさんはそっぽをむいて軽く肩をすくめてみせた。

「オレもしろくまさんには随分と世話になったからな。気を落とすなよ…しろくまさんの分まで頑張らないとな」

そもそもシロクマにすくめるほどの肩なんてあっただろうか?僕はセンパイの言葉も上の空で眉間にシワをよせて真剣に考えていた。

「悪い…そうだよな。今はまだ「頑張れ」はなかったな。事件は一段落したんだろ?休暇をとったらどうだ?」

僕の肩をかるく揺すると、センパイは立ち去っていった。事件の翌日からずっとこんな調子で署内の同僚や上司が、かわるがわる声をかけてきてくれる。刑事になって10年、センパイにも世話になったが刑事の仕事を、相棒としてイチから叩き込んでくれたのはしろくまさんだった。このモヤモヤとした感情の元凶でもあるしろくまさんを上目遣いににらみつける。

「そんなに怖い顔することないだろ?死んだからってこうして前と変わらずオマエのそばにいるわけだしさ。何かと便利なんだぜ?ほらほらみてみて」

机の上にのったナマクビみたいに、首だけになったしろくまさんが声をかけてくる。どうやら霊になったしろくまさんの体は、思い通りにモノを通り抜けることができるらしい。

しろくまさんが僕の腕の中で冷たくなっていくのを感じたときの絶望感を今でもはっきりと覚えている。病院でシを告げられたときの呆然とした気持ち。けれど、あまりにシュールな眼の前の光景に僕のメンタルはそろそろ限界だった。

「ジブン、休暇をとります!」

そう言うと僕は勢いよく椅子から立ち上がって荷物をまとめ始めた。

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