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東武博物館を見学して鉄道の保存を考えた

はじめに

鉄道の博物館といえば大宮の鉄道博物館が有名であるが、私鉄でも魅力的な博物館が存在する。今回初めて東武博物館を訪ねて来た。貴重な車両も保存されており、文化財としての鉄道の保存についても考えることがあった。鉄道に関心無い向きには、あまりピンと来ない話かも知れないが、其処はご容赦のほどを。(2019年9月訪問)

東武博物館の概要

東武スカイツリーライン東向島駅の側の高架下に位置する博物館で、東武鉄道創立90周年記念事業として1989年に開館した東武鉄道の博物館である。鉄道の歴史を語り継ぎ、交通の歴史と文化を伝えるというコンセプトがあるそうだ。

B1形5号蒸気機関車とデハ1形

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館内に入りすぐの場所にある歴史的車両である。東武鉄道が明治時代に創業した時は蒸気機関車B1形5号機関車が活躍し、大正末期に電化して電車運行を始めた時の車両がデハ1形と、東武鉄道黎明期の車両たちである。ほとんどの私鉄の歴史は大正以降の電車から始まっており、東武鉄道の歴史の古さと多様さが感じられる。保存車両に合わせて腕木式信号機や架線も展示され、車両以外のちょっとした付属設備が雰囲気を盛り上げて良い感じだ。

5号機関車は1日に何回か汽笛を鳴らして動輪を回転する実演が見られる。実際に煙を吐く蒸気機関車の迫力には遠く及ばないものの、ほんの少しでも動く姿が観れるのは楽しい工夫である。動かすために作られた車両たちは、動いてこそ観る者に価値を訴えるものがあるように思う。

1720系デラックスロマンスカー

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昭和35年から30年の間走り続けた特急車両である。東武の女王とも言われた名車で、自分にとって東武特急といえばこの車両である。場所が無いのか先頭車の後ろ半分カットなのが残念。車内に入り座席に座ることができ、束の間の旅行気分に浸れる。子供の頃に乗ったはずだが記憶が定かで無く、もう一度乗りたかったものだ。それにしても、当時の国鉄グリーン車以上と言われた車内設備を見て、改めて歴史的名車であると感じた。

日光軌道203号

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昭和43年まで日光駅から運行していた東武日光軌道線の203号が保存されている。運行当時の路線図によれば、日光駅から、いろは坂の下あたりまで走っており、この電車が日光市内の交通の主役だったことを初めて知った。自動車全盛の前には、このような路面電車や軽便鉄道が地域の輸送や発展の主役だったのだろう。この路線も乗って見たかった。

5700系5701号電車

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中庭のような場所に昭和26年に特急用に導入された5700形が展示されている。正面ヘッドマークの翼の形から猫ひげの愛称で呼ばれる。車内も綺麗に復元され、当時の優等列車の雰囲気が感じられる。展示にあたって先頭部をオリジナルに復元されたそうで、きっと手間も費用もかかったであろう。しかし、せっかく保存するなら、その車両が輝いて活躍した時の姿で残すのがベストで、後世に伝える価値も高いと思う。

運転シミュレータ

子供達の行列だったので、今回は見るだけだったが、運転士気分になれる目玉展示である。得意げに運転する子供達の姿を見て、かつての自分を見るようで微笑ましい。

ジオラマ実演展示

関東平野を模したHO ゲージの鉄道模型のジオラマが1日数回実演展示される。開始時間になると子供達が山のように集まって来た。スカイツリーから鬼怒川のSL大樹まで、東武鉄道が走る関東平野を模して作られていた。特急から通勤電車まで、軽快に走る様々な列車たちの姿は見ていて飽きない。

ウオッチングプロムナード

博物館が立地する東向島駅のホーム下に覗き窓が作られて、そこから実際に走行する電車の床下と線路を眺めることが出来る。高架下に立地する施設ならではのもので、なかなかよく考たアイデアである。

見学を終えて鉄道車両の保存を考える

高架下とは思えない広さで、展示も充実した施設だった。乗り鉄の自分にとっては保存車両たちの車内に入れるだけで大満足だったが、展示は多彩である。少しでも鉄道に関心あるなら1日いても飽きない内容だ。決して広くは無い敷地をやり繰りして保存車両を展示している感じが、子供の頃に良く通った神田の交通博物館と近い雰囲気を感じた。嬉しかったのは、保存車両はどれも綺麗な状態に維持されており、丁寧に保存管理されているのが感じられたこと。

鉄道車両は走らすために作られたもので、元気に走る姿こそ輝きを放つと思う。だから動態保存がベストであるが、人や設備など多くの費用がかかるので、それがそう簡単で無いことも良く分かる。東武鉄道では、鬼怒川でSL大樹の運行を始めているが、これも東武博物館所属の車両だそうだ。蒸気機関車は、実際に煙を吐いて走ることで、その特徴と魅力を存分に伝えられる。運行を続けるのは大変かも知れないが、是非とも応援したい取り組みである。

一方で車両を静態保存するだけでも、その維持管理費用は高額だと聞く。そのため、費用の理由から惜しまれつつスクラップとなった車両も多い。鉄道がその地域の近代化や発展に大きな貢献をしたのは確かで、産業遺産の価値だけでなく、当時の暮らしや文化を伝える価値もある。最近は身近な土地の歴史にも関心を持つ傾向が増えて来た。価値や魅力を広く理解してもらうことで、貴重な車両達が保存につながると良いと思う。

コロナ禍で鉄道会社の経営はどこも厳しくなって、動態保存や不採算路線の廃止も心配なところである。世の中が落ち着いたら、まずは鬼怒川のSL大樹に乗りに行って鉄道の保存を応援したい。





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