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これは王国のかぎ

さあ、また随分日が空きました。
ねーねの卒園式が近くて、母は毎晩ダイエットに勤しんでいるのです。
どうしても着たいワンピースがあるのだけれど、ちょっと難しいかも知れなくって。

……ごめんなさい、見栄を張りました。
無理なの。
今の母では全然似合いそうにないの。

だからね、痩せる!ってタイトルがついてる動画に片っ端から飛びついて、どうにかこうにか痩せて見えるように努力してるの。いま。

そう、痩せて見えるようにね。
母は別に本当に自分の体重を気にしているわけではありません。あのワンピースが似合う体型になれるんだったら、実は100キロあったって気にしません。
でも現実はそうじゃないのよね。
100キロだったら100キロなりの体型になるし、痩せてる人は相応の努力と生活習慣を送ってると思うの。

何事も計画性が大事。
母の体重だったら少なくとも三ヵ月は前から運動を始めなければいけませんでした。
娘たち、母の無計画を反面教師にしてください。

今更ながらどたばたしてる母ですが、ご飯だけはしっかり食べてます。
特定の食品を抜くだとか、そういう健康に悪いダイエットは愚の骨頂だと思っています。
しっかり筋肉つけて、食べて、脂肪燃焼させて頑張りますよ。

アラビアンナイトの世界へ

今日はこの本です。
「これは王国のかぎ」(荻原規子 著)。

娘たち、「アラジン」は覚えていますか?
もしくは「アラビアン・ナイト(千夜一夜物語)」、「アリババと40人の盗賊」でも良いでしょう。
ランプの魔神が出てきたり、魔法の呪文「開けゴマ!」と唱えると宝物でいっぱいの部屋の扉が開いたり……。

このお話はそういう世界のお話です。

主人公のひろみは、失恋して大泣きしました。
泣き疲れて目が覚めたらアラビアン・ナイトの世界にいたのです。
驚いていると、ひろみは目の前にいた見知らぬ男の人から「ランプの魔神」と呼ばれます。
実際、ひろみは魔法を使えるようになっていました!
右も左も分からないひろみは、とにかく男の人についていって、砂漠の不思議な世界で旅を始めるのでした……。

こうやってざっと言ってしまうと、最近流行りの異世界転移ものに近い感覚かしら。

主人公は、砂漠の世界ではひろみではなく「ジャニ」と呼ばれるようになります。
魔神の力でお願い事を叶えていくのは楽しそうでしたよ。
魔神ってすごいの。
行きたいところへぴゅんと飛んでいけて、喉が渇くこともなければ、疲れを感じることもありません。

でもだからこそ、ジャニはどんどん大切なことを忘れかけたりするのです。

必然的な本との出会い

母がこの本と出会ったのは偶然ではありません。
この本を書いた作家、荻原規子の本を探していて出会ったのです。

当時、母は小学校高学年。
荻原規子の勾玉三部作(後年四部作になります)を読み切って、すっかりこの人のファンタジーな世界観に魅了されていました。

さて、では荻原規子がどんなお話を書く人だと思っていたのか少しまとめてみます。

荻原規子の味を大きく言えば、「ファンタジー」で「恋愛もの」です。
思春期の女の子が等身大の恋をして頑張っている。
そんな姿を応援したり、どこかで自分自身が励まされたりしながら読み進めさせてくれる作者さんです。

活字の少女漫画って言ったら分かるかしら。
主人公の女の子がとにかく魅力的で、自分とどこかで重なるような普通の子なの。
母も荻原規子を読むときは、主人公の女の子にすごく肩入れして読みます。
女の子に肩入れして少女漫画が読めないなら、荻原規子はオススメしません。

他の人の本を読んだりもしましたが、どうしても荻原規子の「あの味」が恋しくなるのです。
やっぱりね、この読み味は唯一無二。
好きな人は好きだから、一回チャレンジしてみてほしい作家さんです。
そして、初めて荻原規子作品を読む人にオススメしたいのがこの本なの。

本の愉しみ

母はね、ジャニが大好き。
ひろみちゃんの失恋のくだりにはあまり共感というか、わが身のことに置き換えたように没頭できなかったんだけど、
でもジャニみたいに砂漠の世界を冒険したいってずっと思いながら読みました。

知らない世界、知らない人たち、魔法、魔神の力でなにも怖くない旅。

ね、素敵だと思わない?
現実的に考えると、やっぱり知らない場所にいきなり飛んでいっちゃって、知らない人に出会って、旅をするのってとても怖いと思うの。
旅をしていれば良い人ばかりに出会えるわけじゃないだろうし、
異国の風習を何一つ知らないって本当に恐ろしいことなんですよ。
自分でも知らないうちに、自分が悪いことをしているかも知れない。
失礼なことをしているかも知れない。
そうやって知らない間に相手を怒らせてしまっていたら、どんな危ない目に遭うでしょう。

でもね、魔神なら大丈夫。
なんの心配も不安もなく旅ができるの。

そういうふうにね、「現実ではできないけど、本の中ならどこまでも自由に振る舞える」っていうのが母は大好き。
ファンタジーなら尚更ね。

忘れてはいけなかったこと

ジャニは強い魔神だから思うままに振る舞うけれど、やっぱりそうしていると困ったことも起こってしまうの。
それはね、相手の痛みなんかをうっかり忘れちゃうってこと。

さっき、魔神は疲れないし喉が渇いたりもしないって言ったでしょう。
でも人はそうじゃないよね。
疲れて眠かったり、喉が渇いたり、お腹が減ったりします。
こういうことを感じれないと、人ってすぐに死んでしまうから仕方ないよね。
体が「このままじゃ死んじゃうよ」ってシグナルを出しているのをうっかり忘れちゃうと大変だよね。
でも魔神になったひろみは、そういうことがすぐに頭から抜け落ちちゃう。
元々人だったのに、そういうものだって知ってるはずなのに不思議な話よね。

でもこれって、とっても大切なことだと母は思うのです。
魔神ほどじゃなくても、人って自分が感じないことには鈍感になることがあるんじゃないかって。
たとえ自分が一度は経験した苦しみだって、それを克服して忘れてしまったら
今苦しんでる人たちに酷い振る舞いをしてしまうかもしれません。

思いやりややさしさって、相手の立場になって考えることだって言いますよね。
でも、そもそもそういう風に考えるやり方が分からなかったらどうすれば良いんでしょう。
難しいよね。

なので、娘たち。
少し覚えていてほしいのです。

これからあなたたちは、出来ることがどんどん増えていくでしょう。
走れる、自分で食べれる、上手に歌える、身支度が整えれる、お手伝いができる……。
そして自分が出来なかったことを忘れてしまう。

自分が出来ることを当たり前だと思わないこと。
出来なくて困っている人がいるとき、「どうして出来ないの?」なんて心無い言葉をぶつけてはいけません。

じゃあその後どうすればいいのか。
その答えはありません。
あなたたちが考えることです。

考えるには材料が必要です。
その材料を集めるために、読書は一助になると母は信じています。
別に読書でなくとも構いません。
漫画でもアニメでも映画でもドラマでも、音楽だってダンスだって良いです。
たくさんの人の話を聞くのだって、材料集めになるでしょう。

とにかく、自分の知らないものにたくさん触れてください。
そのなかで、自分以外のことを考える練習をたくさん積んでください。
そのなかに、あなたたちの答えがあるはずです。

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