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おやすみ、寝太郎。

ごぶさたしている間に、寝太郎がリアル極楽浄土に逝ってしまいました。

納棺の時には、寝太郎の高次脳機能障害をテーマにした漫画『私、なんで別れられないんだろう』をおさめてきました(奇しくも皮肉なタイトルになってしまった)。

私の初めての漫画単行本を出してくれた編集者であり、私のしょうもないダジャレをジャッジメントしてくれる審判員であり、何をしていてもどのタイミングでも、手を止めてちゃんと話を聞いてくれる人でした。籍は入れなかったし、一緒に暮らしたのはたった12年でしたが、間違いなく私の生涯の伴侶です。

連載時から担当してもらい、一緒に作った漫画単行本。
営業に回った書店からは売る気がない判型と言われたなあ。……確かに

昨年の今ごろ東京タワーそばの病院で「原発不明がんステージ4」の診断を受け、帰り道「今のがんは治る病気だから」とお互い上滑りな会話をしあったような記憶があります。
CTには転移した影は写っているものの、肝心のがんの大元がわからず手術は不可能。抗がん剤治療をスタートしつつも、血液検査の数値は一向に良くならず、今年に入ってこれだけは嫌だなあと思っていた「すい臓がん」を告知されました。しばらくは自覚症状もほとんどなく、なんとなくこのまま行けるんじゃない?と思っていたときもありましたが。
奇跡は起きませんでした。
寝太郎、52年の人生でした。

いま私は初七日も終え、東京のやたら重くてでっかい骨壷(関西人なのでこっちが全てのお骨を収めるって知らなかった)の前でもっさり寝起きしてます。

一般的に初七日というのは三途の川のほとりに立つタイミングらしいですね。しかし寝太郎の葬儀で枕経を上げていただいたお坊さんが浄土真宗で、真宗って亡くなったら速攻阿弥陀さまが迎えにきてくれて即成仏できるんだっておっしゃるじゃないですか。そもそも三途の川も渡らないので、そこが激流だろうが濁流だろうがナイアガラの滝レベルだろうが、残された人間が心配する必要もないそうなんですよ。

え、それ最高じゃないですか。

しかも祭壇には水すらお供えしなくていいとか。
まあ寝太郎の遺骨の前には日本酒とかウイスキーとか毎日お供えしてますけどね。もう健康気にしなくていいから今頃上でウキウキ飲んでると思います。いい身分だね。まあ仏様だからね。スキしにくいでしょうが、スキしてあげてください。スキの数だけ極楽太郎がお酒のおかわりできる設定にしました。いま。

振り返ると寝太郎にとって、特に最後の12年は痛くてつらくてしんどいことの連続だった気がします。
20代の頃から難病の潰瘍性大腸炎に苦しめられ、仕事でつまずいてうつになり、30代後半で脳出血からの片麻痺、そして高次脳機能障害で人間関係にもヒビが入り、ようやく前向きになって働き始めた矢先に2度目の脳出血。その間にも蜂窩織炎だの、握り拳大のおできだので右往左往し、あげくにすい臓がんステージ4って。
神様はどこにいるんでしょうか。いやもう仏様なんだけど。

寝太郎の杖。取っ手がボロボロなのは思うようにならない体に苛立ち、
何度も何度も縁石に打ち付けてしまったから……らしい

もちろん鰻だのお寿司だの糖と脂が大好きな寝太郎にも問題がないわけじゃないですよ。でもそれって宇名ととのうな丼ダブル1100円とかちよだ鮨のえんがわパック寿司とかをウキウキ食べてただけですよ? それで52歳は早くない? それぐらいのぜいたく、許してやってくださいよ。と、40代にほぼ毎日欠かさずコンビニアイスとビール摂取してた私は思います。
愚痴ですけど。

寝太郎、めちゃめちゃがんばってました。
結果がすべてになりがちな現世ですが、このがんばりは評価されるべき。
すい臓がんを告知されたとき「SNSとかで言った方がええんちゃう? 情報交換もできるし、きっとみんな励ましてくれるよ?」と言ったことはあります。でも最後までごくごく一握りの人にしか伝えてなかったようです。そういうところも昭和の男でした。

でもさすがにここまで病に畳みかけられると本人ヘトヘトですよね。
ここ数ヶ月は、もう休ませてあげたいという思いがつい頭に浮かび、いやいやまだ何かできることがあるはず、と葛藤する毎日でした。
だから浄土真宗が「死出の旅」を否定してるってところはいいなと思います。私自身は無宗教だけど、死んでからさらに四十九日間も旅する設定って、漫画じゃ面白そうだけど残されたほうはきっついです。あのがんばりをそばで見てた者としては、死んだら秒で極楽行って大好きなお風呂に入って鼻歌歌っててほしいです。

今はすべての痛みから解放されて、楽になれてるんでしょうね。
麻痺で動かせなかった左腕と左脚もブンブン振り回してるんじゃないかな。利き手が左だったからね。すごい開放感ですよきっと。

「寝太郎くんはいのうえさんがいてくれて幸せだったよ」と、お友達やご親戚の皆さんには言ってもらいました。本当は一緒にいるとき鬼ですかってことも言っちゃってますけど。みんなの前ではいい顔してますけどね。ごめんね。そっちの業はこれから私が生きて背負っていくよ。
大好きだったよ。これも生きてるうちにもっと言っとけばよかった。
少なくとも寝太郎は今すごく幸せ。そう思います。思いますけど。

友人は中川家の礼二だと言うが私は断固キムタク似だと思っている生前の寝太郎

やっぱり私は寝太郎と一緒に年をとりたかったよ。

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