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Tiny Dancer〜乃木坂46・齋藤飛鳥に捧ぐ

イギリスのミュージシャン、エルトン・ジョンの作品に「Tiny Dancer」という楽曲がある。

僕はとても好きなのだけれど、曲を知ったきっかけはキャメロン・クロウの映画「あの頃ペニー・レインと」だった。(2000年 アメリカ)

全体を通して音楽の素晴らしさが際立つ映画なのだけれど、観たのは確か大学生の頃だからもう何年も前になる。

原題は「Almost famous」。無理矢理に和訳すると、〝ブレイク寸前〟。厳格な母親に育てられた少年が、自由奔放というか比較的まともな姉の影響でロックやポップスに目覚める。やがて少年は母親の英才教育で培った文才と、家を出ていった姉が残した大量のアナログレコードを足掛かりに、音楽誌の若きライターとしてとあるバンドのツアーに帯同することになる。女もドラッグも酒も知らない箱入り息子。しかし、荒くれ者のバンドメンバーたちとやがて心を通わせることになる。ペニー・レインという、蠱惑的で純粋で若さと美貌を持て余した女の子とともに・・・

いくつかのシーンが記憶に残っているけれど、中でも印象深かったのが、ペニー・レインがライブの終わった小さなライブハウスで、床に散乱した金テープや銀テープを蹴り上げるシーンだ。

Tiny Dancerはそのシーンで流れる。


優しいメロディー。なのに、なぜかこの歌は胸を掻きむしられるような寂しさとやるせなさをたたえている。

僕が急にこの歌を思い出したのは、神宮球場で齋藤飛鳥の姿を見たときだった。

正確に言えば、もう何度となくライブで踊る彼女の姿を見ているはずなのに、
彼女が楽しそうに踊ったり、ふざけ合ったり、少し恥ずかしそうに可愛いポーズをとったり、その度に、回を重ねるごとに、小さなその姿に儚さと寂しさを感じるのだ。彼女は現にそこにいるのに。

確かに1期生は、樋口・和田が卒業することで秋元真夏と齋藤飛鳥の2人だけになる。時間は平等に流れているのだ。

3期生がライブを引っ張るようになり、4期生、5期生の存在感が日増しに強くなっていく今、これは当然の変化だろう。

けれど、それ以上に、この小さな女の子のような彼女の姿に、ライブハウスで金銀のテープを蹴り上げる小さなダンサーの姿が重なって見える。

人生の半分近くを芸能界という特殊な培養装置で育った彼女。真っ白で傷つきやすくて、生意気で、天邪鬼な彼女。

8月31日、神宮の最終日は
冒頭に今回の全国ツアーを振り返るVTRが流れた。

3年振りの聖地・明治神宮野球場。
彼女は、すべてを知る者の一人。もう残り僅かになってしまったけれど。

あの小さな背中に
彼女は何を背負っているんだろう。

深読みしないでくれ、と彼女は言うけれど。

みんな、いつか自分一人の人生に戻っていく。

こちらの向き合い方も少しずつ変わっていく。

2022年9月1日

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