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謙虚、優しさ、絆・・・そして、キミガイナイ今

いつからか、乃木坂と欅坂と日向坂のライブやリリースに関する情報を、ノートに書き留めるようになった。1年前の10月を見ると、中旬に欅坂46のTHE LAST LIVEが、下旬(28日)に乃木坂46の白石麻衣卒業コンサートがいずれも無観客・配信ライブの形式で行われた。両方のファンにとっては、さながら感情のジェットコースターのような日々だった。コロナ禍の記憶とともに、色濃く残っている、いや刻み込まれている音と光と闇の世界。

あれから、1年が経った。

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欅坂46 THE LAST LIVE 2020.10.12-13<無観客・配信>

おずおずと開く鉄の格子戸。ゆっくりと歩み出すメンバーの表情は闇に溶け込み窺い知ることができない。いくつもの影法師を床に映し出しながら、一直線にステージに向かう。メンバーみんなで歩む・・・

それより1年余前、超満員の観客の熱気と期待で膨れ上がった東京ドームのOP。廃墟のように荒廃したステージに歩み出したのは平手友梨奈一人だけだった。何かを探すように、何かに追いかけられるように、何かに取り憑かれたように彷徨う彼女を、まるで観客の好奇の視線のようにピンスポットが追う。早く、最初の一音を探すんだ、命が尽きるその前に・・・!

1年の歳月を経たこの日、かつて「最初の一音」を見つけ出してくれた少女の姿は既にない。ただ、かつてそこにあった大切な何かを探し求めるように彼女たちはただステージに向かい、整列する。それは葬列のようであった。

静寂。

overture 各自ポジションへ。スタンバイ。

1曲目、「サイレントマジョリティー」

2曲目、「大人は信じてくれない」

VTR、モノローグ。各自ポジションへ。スタンバイ。

3曲目、「エキセントリック」

流れていく。ただ淡々と流れていく。式次第がそうあるように、ステージは進行され、次々に楽曲が、VTRが、モノローグが流れる。歓声は聞こえない。ペンライトの光も見えない。湿り気を帯びた広い会場内で響き渡る楽曲は、皮肉にもその曲本来の持ち味を存分に発揮した。欅坂46の世界観そのものを。

夢、愛、儚さ、正義、人生、怒り、孤独、仲間、救い、未来、絶望、希望、自由、悲しみ、逃避、秘密、痛み、生きる

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10月13日、THE LAST LIVE <DAY2>の当日、当時まだ上映中だった「僕たちの嘘と真実」を(多分5回目ぐらい)観に行った。事実上、欅坂46の活動最終日ということもあり、映画館の中は混雑していた。みんな考えることは同じだった。もう何度も見たシーンを繰り返して見ながら、改めて彼女たちのステージの緻密さに胸を打たれながら(爆音でアドレナリンは全開だ)、同時に込み上げてくるものを抑えきれなかった。

帰り道、近くのタワーレコードではベストアルバム「永遠より長い一瞬〜あの頃、確かに存在した私たち〜」(2020年10月7日リリース)発売を記念したパネル展が開催されていたので寄ってみた。

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夢、愛、儚さ、正義、人生、怒り、孤独、仲間、救い、未来、絶望、希望、自由、悲しみ、逃避、秘密、痛み、生きる

もう一度、反芻してみる。

特定の楽曲ばかりが注目されたが(それはどんなアーティストでもそうだ。きっかけがあり、そこから入り込んだものだけが本当の姿に出会える)、THE LAST LIVE2日間のセットリストにも、ベストアルバムの中にも、彼女たちが全身で表現しようとしていたものが断片のように閉じ込められている。その一つ一つを、僕らはただ拾い集めることしかできない。

でも、いくら拾い集めても、もう欅坂はそこにいないのだ。

ぽっかりと空いたステージ。彷徨うピンスポットライト。それは僕らの心の写し絵でもある。真新しい櫻坂46の白い衣装に清廉さと新たな決心を感じ取りながら、その決意が強く感じられるたびに、否応なく現実を思い知らされる。

もっと、たくさん愛せばよかった。もっと応援すればよかった。その時間はあった。充分なほどに。いつもそうだ、終わってから、失ってから気づく。相変わらず、同じ怪我をしたことに。

でも。心のかさぶたを見るたびに、そこに彼女たちがいたことに気づく。彼女たちの居場所がそこにあったから、いなくなってしまった今、痛みを感じられる。それは、永遠より長い一瞬だと思う。

12曲目、「避雷針」

13曲目、「不協和音」

VTR、モノローグ。各自ポジションへ。スタンバイ。

14曲目、「キミガイナイ」

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平手友梨奈の「脱退」、織田奈那、鈴本美愉の卒業、佐藤詩織の活動休止を伝える2020年1月24日付「日刊スポーツ」(画面左)と「スポーツ報知」(画面右)

みのもんたさん降板のニュースより扱いが大きいのは日刊スポーツ故か。短期集中的にワイドショーや週刊誌でも取り上げられたが、プライベートを意図的に晒す内容か、(思春期の10代半ばの少女が、生放送のステージで体調を崩したりうまく笑えないことを)針小棒大に取り上げて憶測だけでものをいう内容が目立った。(日刊スポーツだけは違っていた。少なくとも血が通っていた)

世の中そのものが、これまでに聞いたことのないような音を立てて軋み、歪み、流転した2020年、怒涛のような日々の先に僕たちはどうにか落ち着ける場所を見つけようとした。しかし、見つからなかった。

その場所も危ないんだよ、とそれは親切心なのか?通りすがりの誰かが言う。同じように彷徨っていた彼女たちも、自ら落ち着ける場所を探し出し求める。

17曲目、DAY1ラスト、「黒い羊」

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謙虚、優しさ、絆。

生きていく上で必要なもの。時に自分を傷つけるもの。

DAY2、欅坂46、最後の日。

最後のoverture-

1曲目、「危なっかしい計画」

2曲目、「手を繋いで帰ろうか」

VTR、モノローグ。各自ポジションへ。スタンバイ。

3曲目、「二人セゾン」

4曲目、「太陽は見上げる人を選ばない」

VTR、モノローグ。各自ポジションへ。スタンバイ。

5曲目、「制服と太陽」

ああ、このセトリ、神だな。

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(当日の公式WEBサイトのスクリーンショット)

子どもの頃から、辛くなると宇宙のことを考える。宇宙は広大で無限に広がる。今こうして悩んでいる間にも膨張を続けているという・・・

6曲目、「世界には愛しかない」

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(新星堂・大阪難波店に掲載のポスター)

・・・ある学者によると、宇宙は無からビッグバンをもって始まり、膨張を続けている。しかし極限まで膨張すると、今度は収縮し始める。そして膨張するのにかかったのと同じ時間をかけて、無に戻ると言うのだ。

聞いた時、怖くて眠れなくなった。今こうしているこの時間は、前を向いている時間か、それとも既に逆行しているのか。時々、前にもこの場所に来て同じ景色を見て同じことを思ったような気がすることがあるけれど、あのデジャヴュという現象の正体は、自分が本当は逆戻りしているからではないのか。そんなことを考えて、あまりの馬鹿馬鹿しさに呆れた・・・

11曲目、「風に吹かれても」

12曲目、「アンビバレント」

・・・でも、膨張しつづけたのちに今度は収縮に転じる、と言うのは興味深い考え方だった。始まりと終わりは、同じ場所なのだ。それは恐ろしくもあり、魅力的な考え方でもあった。

あの宇宙論者の思想が正しければ、進んだ時間はいつか同じ時間をかけて巻き戻され、何も無かったのと同じになる。

でも人間の記憶はそうはいかない。同じ場所に再び帰ってきても、あの時とはもう別人のようになっている。

夢、愛、儚さ、正義、人生、怒り、孤独、仲間、救い、未来、絶望、希望、自由、悲しみ、逃避、秘密、痛み、生きる

もう一度、反芻してみる。

14曲目、「誰がその鐘を鳴らすのか?」

VTR、モノローグ。各自ポジションへ。スタンバイ。

15曲目、「サイレントマジョリティー」

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(タワーレコード・大阪難波店)

自ら落ち着ける場所を探し出し求める・・・

その場所は、大丈夫だよ。

さようなら、欅坂46。

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こんにちは、櫻坂46。

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あれから1年、今日は2021年10月13日。

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