白生 名

ぜんぶ愛です|https://potofu.me/shiroi-mei

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  • 【連作短編】アンナとひーちゃん

    アンナとひーちゃん。幼なじみふたりの話です。

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【小説】四角いからだにキスをして

 僕のどこが好き? って聞いてくるやつさ、本当に聞き飽きた。ていうか最初に聞かれたときに「そんなこと私に言わせんなよ」ってはっきり言ったじゃん。それからは何度聞かれても顔とか身体とか適当なこと言ってふざけてたじゃん。だから、それ、なんていうかそういうコント? 冗談の一つだと思ってたわけよ。それがさ、もうじき死ぬかもです、だなんていかにもな感じでベッドに横たわってさあ、点滴とかしちゃってまあ。カスカスのヨボヨボの声で、絞り出すみたいに音出すのがやっとの状況でも聞くの、それ? も

    • 【掌編小説】天国にいちばん近い夏

       世に蔓延る当たり前というものは、思いのほか容易く覆される。当たり前が砕け散る時にはもっと驚いたり動揺するものだと思っていたが、いざその場面に直面してみると呆気にとられて感情の起伏も消失してしまった。凪。もしくは丁寧に均されたグラウンドのような心情。どうやらそういうものらしい。  夏が終わらない。  夏が来れば、やがて秋になる。日本に生まれてから現在に至るまで、特別意識もしなければ感動もしないような当たり前の事象だ。ところが、その年は待てども待てども秋が来ることはなかった

      • 本日を豆大福の日とします_221012

        豆大福たべたいなー、って数日前から思ってた。でも食べなかった。 豆大福食べて良いですか?  だめです。 無意識で自分で自分に許可をとっていて、その承認が下りていなかった。 きっとそういうものの積み重ねで、ここ最近はなんだかずっと調子が悪いままでいる。雨がぱらつきはじめた午後、ぐんと気持ちの居所が悪くなる。室内にいるから濡れないんだけど、そういう問題じゃない。全身が凝って凝ってしょうがないかんじ。じっと座って仕事ができない。やっと仕事が終わったと思ったら、ぎゅうぎゅうの電

        • 【小説】非覚醒区の住民

           職場の右隣の席には、よく居眠りをしている後輩がいる。  こいつ、先輩が働いている横で堂々と! と思わないこともないが、わたしもうっかり寝てしまうことくらいあるので、人のことをとやかく言える立場ではない。  わたし自身、何をしていても眠い日が増えていた。睡眠している状態が通常であるかのように、抗えない異様な眠気に襲われ、立ちながら寝ることもあったし、なんなら歩きながらも寝た。人は案外器用にできている。  一日の睡眠時間が六割を超えてしばらくしたころ、ついにわたしは夢の世界で

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        【小説】四角いからだにキスをして

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          【小説】呪詛まで愛して

           ユーレイがどんな夢を見るか、しってる?  幽霊は眠らない。けれど、夢を見ることができる。ただ「夢を見る」という表現ではすこし語弊があるかもしれない。正しく言えば「人の夢を見る」ことができる。  やり方は簡単だ。  寝ている人の額に自分の額を重ね合わせて、目を瞑る。それだけ。  そのままじっとしていると、意識がドロドロに溶けてひとつに混ざるような感覚がする。それから目を開くと、その人の夢の中にいる。  わたしは眠れなくなった代わりに、大好きなひーちゃんと同じ夢を見ることがで

          【小説】呪詛まで愛して

          【小説】かわいいベイビー

           ポツポツと窓を叩く雨音とカチカチと鳴るマウスのクリック音だけが部屋の中に響いている。静かだ。  いつも構ってほしがって騒ぎ立てるアンナは、珍しく黙ってただ窓の外を見つめているようだった。八畳の部屋の隅を陣取るベッドにちょこんと座る彼女は、静かにしていると存在感がまるでなく、小さいその身体は思った以上に小さく、瞬きの後には消えているかもしれない、なんて思ってしまうほどだった。  実際、いつ消えてもおかしくないのかもしれない。自分の頭がイカれて、長いこと幻覚を見ているだけなの

          【小説】かわいいベイビー

          【小説】好きじゃないけど抱きしめて

           酸素のありがたさを理解できるのは、たぶん溺れてる瞬間だ。  冷たい風が吹き付けて、自分を丸ごと抱くように膝をかかえこむ。狭い空間の中、靴底と小石が擦れ合う音が大袈裟に響き渡った。  目元に溜まる涙を払うようにまつ毛を絡ませたが、その後目を開く気力すらない。緩み切った涙腺からとめどなく流れ出る涙が目頭から目尻へ、そして頬へと滑り落ちていく。  生まれたときから常にそばにあるものを、誰が感謝できるものか。  当然、それができる人はいる。わかっている。でも、私にはできない。でき

          【小説】好きじゃないけど抱きしめて

          【小説】ラスト・ショット

           東京のキラキラ着たい。と、アンナが言った。愛用しているX100Fのお手入れにたっぷりと時間を割き、防湿庫に入れて眠らせたところだった。ひとまず無視。私もひと仕事終えていざ入眠、というタイミングだ。意地悪ではない。ただ、なんとも間が悪い。 「ねーえー、東京のキラキラ着たい!」  無視でどうにかなるほど相手は甘くはなかった。押しが強い。甘いのは私の見積もりのほうか——舌打ちを口内で噛み殺して仕方なく応戦することにする。 「…………東京のキラキラって、なに」  返事がくる

          【小説】ラスト・ショット