ある助手の不倫

 安保あんぽ博士の助手は絶世の美女だ。
 射干玉の豊かな黒か間に、澄んだ陶磁の白い肌。瞳は艶っぽい琥珀色で、人より小指の爪一つ分程大きい。
 ぷっくり膨らんだ唇は、何も塗っていなくても淡く紅い。
 身長は平均。ふくよかな胸が女性らしいが重そうだ。
 安保博士に助手は常に寄り添い、その仕事を補佐した。
 助手は絶世の美女なだけでなく、優秀な研究員だった。
 最初その助手の美貌に脅えてい他の女性研究員達も次第に彼女を好きになった。
 そもそも自分の美しさを鼻にかけた人間なら、こんなモグリで成果の出にくい仕事は選ばないのだ。
 なので研究員たちは博士とその助手が不倫関係にある事に何となく気が付きながらも、別段何も言わなかった。
 もしかしたら、それは個人的な事に首を突っ込む事で、自分の好きな研究が出来なくなるのが嫌だっただけかも知れないが。
 博士と助手の不倫関係は13年続いた。
 勿論助手は研究所以外では酷く責めたてられた。
 友人は次々に結婚し、親からは40歳過ぎてまだ未婚である事を恥ずかしいと睨まれた。
 博士別れろと、人として間違っていると散々言われ続けた。
 それでも二人は別れなかった。
 ある日、博士の妻が病院に運ばれた。
 妻は泡を吹いていた。
 夫と言い合いの末、は呼吸を起こしたのだ。
 暫し病院で安静にするように言われたが、妻は言う事を聞かず、周りに暴言を吐きまくった。
 その時調度見舞いに来た博士の母は、息子の嫁の態度を見て唖然となった。
「学生の頃からああなんだ。」
 妻にとって博士はトロフィーボーイだったのだ。
 思えば、二人が大学院時代に学生結婚したのは、周りが二人は何時結婚するのかとはやし立てたせいかもある。
 その頃、学生だった安保博士は重要な研究で賞を取り、国内トップの成績を納めていた。
「何時の間にか付き合ってる事になってた。」
 始めて彼女を実家に連れて来て、そう呟いた息子の一言を博士の母は今になって思いだした。
 博士の母は翌日研究所に赴いた。
 その時始めて博士の助手を見かけた。
 以前嫁から聞いた話では、高慢ちきな美女で常に偉そうな物言いをすると聞いていたが、一人一人の研究員に過不足なく接し、常に周りに気を回している様子だった。
 夕方、博士の母は研究所から出て来た助手に声をかけた。
「これからも、私の息子を手助けしてくれませんか?」
 助手は寒くも無いのに鼻をすすった。
「…私はあの人の助手ですから。」
 こうして、数日後。博士と助手の不倫関係は幕を閉じた。

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