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ディスディスしてる

「ホント無理!ホント無理!ホント無理!」
 女性用露天風呂に成人女性の声が響く。
 その直後、室内風呂にこまめが足早に露天風呂から、やまえの処へ戻って来た。
「どうしたのこまちゃん?」
 寒さは年齢に響くと室内風呂に残ったやまえの横に座り込みお湯につかるこまめ。
「何か露店でうるさい人がいる。」
「ああ、ここまで聞えたけど、何話してるんだろうね。」
「いや、何か外人と話してて、英語何で分かんないですね。」
「え?じゃあ何で「ホント無理」って連呼してたの?」
「何か~、後から入って来た人の体型見て外国人と笑ってましたよ。聞いて欲しかったんじゃ無いですか。そこだけ日本語で。」
「まぁ英語で喋ってんのも、周りの日本人に聞いて欲しかったんだろうけどね。」
「ああ、そっかそうなのか。だから「私たち頑張ったよね~」ってとこも日本語だったのか。あはは!一緒にいた外国人、そこの日本語聞き取れなくて微妙そうな顔してました。」
「ええ、こっそり心で想っとけば良いのにねぇ。会話をしてる相手じゃなくて、会話をしてる自分が、周りにどう評価される方に気がいってるんだろうけど。」
「他の人もいるのに狭い場所占領して、大声でしゃべって、ホント露天風呂来たのに何なのって感じですよぉ。これだから欧米系は、自分が良きゃいいのかね。電車でも周りお構いなく電話するし、大声でしゃべりまくるしホントいやになっちゃいません~?」
 こまえは舌が調子づいて、ぺらぺらと話し出す。
「これこれ、その辺でやめときなさい。」
「えええ?」
「ディスってる人達をディスっても”ディスディス”してくるでしょ?」
「何ですか”ディスディス”って、”ぎすぎす”見たいに言わないで下さいよ。」
「あはは、人間はお互いが”鏡”だからさ。自分のおでこのニキビを覗き込む見たいに、目に映った相手をディスってると、結果的に自分をディする事になるでしょ?」
「えええ?でもやっぱムカつきます。」
 こまめとやまえはやっと仕事が開けて、調度休みが重なったからと、先輩後輩で仲良く日帰り温泉に来たところだった。
「じゃあ、気分直しにお風呂出たら、珈琲牛乳奢ってあげる。」
「ホントですか!やったぁ!」
「うふふ。こまちゃんは人の気持も汲み取れて、それでいて大らかだから凄く一緒にいて気持ち良いね。」
「私にはやまえさんていう素敵な鏡がありますからね。」
「こいつぅ」
 こまめは、やまえにデコピンされてけたけたと笑っていた。

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