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DeSciTokyo Conference 2023 開催に向けて思っていたこと

こんにちは、独立研究者の高木と申します。
先日 4/16 に、私も運営として少しだけお手伝いをしていた DeSci.Tokyo Conference 2023 というイベントが開催されました。

DeSci.Tokyo Conference 2023 のウェブサイト

DeSci とは Decentralized Science すなわち分散型科学の略で、ブロックチェーンなどの分散型技術を用いて分散型のガバナンスに支えられた研究システムを目指す運動の総称です。この運動は 2022 年頃から盛り上がりを見せており、DeSci Berlin、DeSci New York City、DeSci London とこれまで世界各地でミートアップが開催されています。DeSci.Tokyo Conference 2023 はこれの東京版をやろうというものです。

このイベントは 株式会社アラヤ でご研究をされている神経科学者の濱田さんが主導となって、というよりもほぼ一人で色々背負って開催してくださったイベントです。濱田さんは昨年頭から DeSci について継続的に発信をされてきた方で、日本で DeSci を最もよく理解されている方と言っても過言ではありません。このイベントを成功させるためにも本当に尽力されていて、途中で倒れてしまうのではないかというぐらいでした。濱田さん無くしてはこのイベントの成功は愚か存在すらありませんでした。改めて本当に感謝しています。

こちらの会ですが、みなさんのご協力もあり無事に終えることができました。非常に熱気あふれる会で、私もとても勇気を貰えた会となりました。スポンサーの皆様、academist のサポーターの皆様、登壇者の皆様、SmartNews の皆様、DEEPCORE の皆様、academist の皆様、ARAYA の皆様、Code for Japan の皆様、参加者の皆様、ボランティアの方々、そして運営の皆さん、改めて本当にありがとうございました。当日の様子は Youtube Live で公開していますので、ご関心ある方は是非見てみてください。

この会の概要や感想などはまたどこかで書けたらと思っていますが、今回はこの会の開催に向けて書いていた文章を共有しようと思っています。本当は開催前に別の形で共有する予定だったのですが、色々あってお蔵入りになってしまっていました。せっかくそこそこ気持ちを込めて書いたので、とりあえず成仏しとこうと思い今回 note に投稿することにしました。

開催前に書いたので所々開催前感があると思いますが、特に修正せずに投稿しようと思います。みなさんそれぞれ思っていたことなど違うかと思いますが、この人はこう思ってたんだな〜くらいに読んでいただければ幸いです。

それでは、以下本文になります↓↓↓


はじめに

初めまして、独立研究者の高木と申します。私は DeSci の「より良い研究のあり方を志向する分散的な運動である」側面を特に重要視しています。この投稿では、私がなぜそのように思うのか、 DeSci と言う運動に何をどのような意味で期待していて、そしてなぜ DeSci.Tokyo に関わろうと思ったのかについて書いていこうと思います。

私も専門家ではないので間違っている点などあるかと思います。何か誤りなどを見つけた方はご連絡いただけますと幸いです。

分散的な研究システムを志向する運動としてのDeSci

DeSci とは分散的な技術や方法を用いて分散的な研究システムの構築と研究の実践を目指す運動であると私は認識しています。
もちろん、究極的に分散的というのはとても難しいとは思います。「中央集権的か非中央集権的か」の二者択一というよりも相対的な分散度の大きさの違いが存在していると捉える方が正確かもしれません。その意味では、 DeSci の目的は少数のステークホルダーにより研究システムが独占される状態を避け、相対的に分散度が高い研究システムを志向する運動と捉えられるかもしれません。

ではそもそもなぜ「分散的」であることを目指すのかというと、それは「研究により生み出された知識は人類にとっての公共財である」と言う信念が根底にあるからだと考えています。公共財はその性質上は多くの場合政府などによって供給が行われたり、政府による介入を必要としたりします。しかしそれは対象とする共同体の単位が「国家」であるためにできることです。私たちは現在世界政府のようなものを持っていませんので、「人類の」公共財を供給できるような公的な機関は存在しません。そこでそれらを分散的に支えていこうと言うのがこれらの運動の思想的根拠の一つなのではないかと思っています。

私もこのような世界観に共感する部分があるので、その意味でこの運動がうまくいって欲しいと思っています。

より良い研究のあり方を志向する運動としてのDeSci

私は、DeSci は「分散的な研究システムを志向する動き」でありかつ「より良い研究システムを志向する動き」であると考えています。分散的なシステムについては前述した通りで、私自身はこの思想に共感していることも述べました。他方で、「より良い研究環境」は必ずしも分散的なあり方でしか実現できないというものではないと思っています。ある問題には企業が多くのお金を注ぎ込んだ方が解決に向かうかもしれません。またある問題では、政府主導での動きが重要なものもあると思います。私がDeSci が盛り上がることで期待していることの一つが、分散的なものもそうでないものも併せて、この「より良い研究システムを志向する動き」全体が盛り上がっていくことです。

これらの個々としては分散度が相対的に低い運動が盛り上がることは、上述した分散的な研究システムの構築とも実質的には対立しないと考えています。もちろん研究実践の構成要素全てが分散的であるのが、分散を志向する上では理想だとは思います。しかし、実態としては個々が非分散であったとしても総体として多様であればそれはある種分散といってもいいのではないかと思っています。前述したようにそもそも分散を志向するのは特定のプレイヤーが研究過程に対して力を持ちすぎないようにするためだと思っています。ですので、多様なプレイヤーが存在して特定のプレイヤーが独占していないのであれば、「分散」を目指すことで達成したいことは部分的に達成できてると言えなくもないと思うからです。
より良い研究を目指す人が一人でも多く現れ、一人でも多く成功していくことは、この全体としての「多様性」と「分散性」を高めていくと思っています。それこそが私が DeSci.Tokyo で盛り上げていきたい動きであり、DeSci が盛り上がってほしい理由の一つです。

Metascience Entrepreneur

より良い研究システムを志向する動き自体が盛り上がっていくことを重要視していると述べました。この私の気持ちに非常に近い考えをとてもよく言語化しているブログがありますので、これを紹介させてください。

そのブログとは『オープンサイエンス革命』で知られる Michael Nielsen と、Generally Intelligent の CEO である Kanjun Qiu が 2022 年 10 月 18 日に投稿した、A Vision of Metascience: An Engine of Improvement for the Social Processes of Science というブログです。このブログが投げかけているのは、「科学の文化(ないし社会過程)はどのようにしてより良く変えていくことができるのか?」という問いです。

著者らは、現在の科学の実践が必ずしも最適ではない可能性が高いと捉えています。というのも、取りうる科学実践の可能範囲のうち、人類は極めて限られた範囲しか探索をしていないと考えられるからです。より良い研究システムを目指していくためには、個々の課題解決ももちろんですが、そもそも多様な実践を探索すること、そのためのより良いデザインを考えることが大事なのではないかと著者たちは主張しています。


"A Vision of Metascience: An Engine of Improvement for the Social Processes of Science" より

科学実践の可能範囲をより広く探索し、科学実践の文化をより良いものにしていくためには、metascience entrepreneur の存在が重要だと、著者らは主張しています。Metascience entrepreneur とは、既存の研究システムの中で強い権力を持たないもので、科学の社会的過程の大規模な改善を目指す人たちのことです。このような存在が重要なのは、それが、研究システムを分散的に変えていくことに繋がる、すなわち、より多くのプレイヤーが参加しより多くのアイデアが試されていくことに繋がるからであると、Nielsenらは言っています。すでに既存のシステムの中で強い力を持っていると、様々なしがらみや拘束、目に見えない抑制力によって抜本的な改革をするのは困難になる可能性があります 。そのようなものから自由な人々が分散的に科学システムの改善に取り組むことで、様々な科学実践が試され、科学のあり方が大きく変わっていくというのが著者らの描いている姿です。

しかし、これらの人々が成功を収めるのには多くの障壁があるという点を著者らは問題視しています。特に metascience preneur は初めの頃は力がないので、軌道に乗るまでが大変です。そのため、Nielsen らはこれらの人々が「構造的に」成功を収めていくような仕組みなり基盤なりを考えていくことが重要であることを強調しています。ただ metascience entrepreneur が出てくるのを待つのではなく、彼ら彼女らが成功するような世界やゲームを作っていこうという点にとても共感しますし、それこそが大切だと私も思っています。

Metascience EntrepreneurとDeSci.Tokyo

分散型科学は、まさに彼らの言う metascience entrepreneur による活動であり、 metascience entrepreneur を生み出していく活動だと考えています。その意味で私はこの動きが研究システムをより良い方向に加速させていくのではないかと期待しています。Nielsen らの主張に則るのであれば、ここで大事なのはそもそもこういった人たちが活動を始めるハードルを下げること、そして取り組んでいる人たちが 1 人でも多く成功するような基盤を整えることです。私が DeSci.Tokyo に関わろうとした理由、そして私が DeSci.Tokyo conference を成功させたいと思う理由はここにあります。

日本にも官民学を問わず、まだ行動には移していないけれど現状に課題感を感じている方、すでにより良い研究システムを目指して尽力されている方が大勢いらっしゃると思っています。DeSci.Tokyo conference では前者の方には一歩踏み出すための機会を、後者の方には今の活動をより加速させるための機会を提供できればと思っています。特に、最初の一歩の障壁を下げるためには、熱量を共有する人たちと交流すること、既に前線で活躍している人の言葉を聞くことが重要だと考えており、そのような機会をできる限り提供できるよう準備を進めています。

また、日本でも生まれている metascience entrepreneur たちの動きを、世界の文脈にも接続できる機会となればとも思っています。DeSci 、ひいては研究という営みは国境を問いません。DeSci のミートアップも Berlin、London、New York と世界各地で開催されています。DeSci.Tokyo conference は日本版の DeSci を生み出すものではなく、世界のこうした流れや勢いに、日本の志ある方々を巻き込んでいくことを一つの目的としています。それこそが国や地域や社会的背景によらず、分散的により良い研究システムを生み出していく流れを作っていくものと信じていますし、日本で高い志を持つ方々がその流れに勢いをつけていくことは DeSci や研究の未来のためにもとても重要だと考えています。

このイベントから一人でも多くの metascience entrepreneur が生まれ、成功し、研究の未来が少しでも早く少しでも良いものになっていけば嬉しいです。

おわりに

私自身が独立して研究をしようと思った理由の一つに「既存の研究システムの外側にも研究エコシステムを広げていく一助となれば」という気持ちがありました。ただ、私は研究をしたいので、metascience に関する活動は片手間にならざるを得ず、歯痒さを感じていました。そんな中今回 DeSci Tokyo の話が立ち上がってきたので、これまでできなかった分も是非ここで metascience の動きを大きく加速させたいと思い、現在関わっています。

私自身は今後も自分自身が metascience entrepreneur として metascience を専門としていくことはないかもしれません。その意味でも、今回のイベントで一人でも多くその意志を継いでくださる方に出会えれば光栄です。個人としてはそういった方々が一人でも多く成功するようにこれからも応援していけたらと思います。

昨年から勢いがついた DeSci の流れ、DeSci ミートアップの開催、 Micheal Nielsen らの metascience についてのビジョンと、metascience 周りの建設的かつ大きな可能性を秘めた動きが今生まれてきているのは、偶然ではないと思っています。この世界的な流れを大きなうねりへと変えられるよう、そしてより良い研究の未来へとつなげていけるよう、みんなで盛り上げていきましょう!!


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