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Cien Años de Soledad 4

前回までのあらすじ:
馬古戸村に住む保瀬有次郎はチンドン屋から
大きな虫眼鏡を買い取った。軍事利用できるのでは
ないかと考えたのだ。鉄の棒に引き続き、
実験に没頭する有次郎。妻・瓜子の父親が貯めた
小判にも手をつけた。やばい。


「ちょいとお前さん、何してるんだい」
「う、うわあっ、あっちっち〜〜!」
「馬鹿だねお前さんは……虫眼鏡でお天道さまの光を
あつめて自分にあてるなんて……あたしゃ旦那えらびを
間違えたようだ。もっとも見合いではあったがね。
しかし火事も出しかけたことだし困ったものだよ。
何時までも三帖間にこもっては計算をして……いったい何を
かいたのかね」
「ほれ、新兵器の性能の提要だ。要領だな。これは教育という
見地からみて驚嘆に値する明確さに貫かれている。
有無をいわさぬ説得力を備えたものだ。いや〜俺って
天才だな〜」
「自分でいうかねこの人は……まああたしも学はないけど
何やら凄そうではあるねえ、これは」
「ようし、これは実験に基づく多数の証拠と数枚の図解を
添えよう。飛脚に当局まで届けさせるんだ」
「ああそうかい」


飛脚はなんやかんやでやっと駅馬と連絡する道まで辿り着いた。
馬古戸村はすげー田舎なので山だの沼地だの野獣だのめちゃ
大変なのだ。野獣先輩ではないぞ。
当時はまだ首府への旅行はほとんど不可能な状態だった。
しかし、軍関係者の前で新兵器を実地に公開し、太陽戦争の
複雑な技術を自分で教えるためならば、政府の命令が届きしだい
そちらへ出向いてもよい、と保瀬有次郎はかき送っていた。



何年も返事を待った。とうとうしびれを切らし、彼の創意も
みじめな失敗に終わったことをチンドン屋の喜八郎の前で
嘆いた。すると喜八郎はその誠実さを証明するように、
虫眼鏡と引き換えに小判を返して寄越したばかりか、数枚の
葡萄牙ーーポルトガル渡来の地図と若干の航海用の器具を譲ってくれた。



さらに天文観測儀や羅針盤や六分儀などが扱えるように、といって
自分で筆をとって伊能忠敬の研究をまとめたものーー
これがまた膨大なものだったーーを渡してくれた。
保瀬有次郎は誰にも実験の邪魔をされないように奥にもうけた
三帖間にこもって、梅雨のあいだを過ごした。続く。

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