TACHIKAWA dystopia 9 Ég elska þig
「ボス。いくら探偵事務所がひまだからって最近マリファナばっかりすってません?」
「いいんだよ合法なんだし。いまめちゃくちゃ安いよ。タチカワドンキでダースで買ってんだよ」
「お酒は違法でしょ。こんなにどこで手に入れるんですか」
「ララポートあたりが悪いやつのたまり場になってんの。そこかな」
「不良中年ですね。親御さんは泣きますよ」
「親なんてとっくの昔に死んだよ」
「じゃああたしと一緒ですね。あたしのママも18であたしを産んで19で死んで」
「パパは知らないんだっけ」
「はい」
「お前の家族のことって俺そんくらいしか知らないな。まあお前はいつも秘密秘密ってね。連れないよね。俺アダチに住んでたじゃん。アヤセ連合ってとこにいたんだよ」
「何ですか? それ」
「悪いやつのチームかな。タチカワはレッドエンペラーとかいてさ。たまに抗争とかになってたんだよね」
「ボスって不良だったんだ。いまもか」
「でさ、俺その抗争絡みで妹が死んでんの。わりと不慮の……事件というか事故っていうか。……なんかお前見てると妹思い出すわ。妹はまだ中学生でさ。でも俺結局あいつのこと守れなくてさ。なんかそんなことばっか思うと酒ばっか飲んじゃうな。違法だから高いけどね。金ならあんだよ、一応遺産みたいなのが。だからこんなお遊びみたいな探偵事務所で毎日のほほんと暮らしてさ。政府は俺らにマリファナと緩い娯楽しか与えない。もっと大事なものはある筈なのに。何でこんな世の中なんだよ。どこで狂ったんだろうな? 500年前……2000年前後はもっとまともだったのか? 俺わかんねーよ。どいつもこいつも馬鹿ばっかじゃん。マリファナばっかで働きもせずどんどん衰退していってさ。麻なんて解禁するべきじゃなかった。麻は本来神聖な神の植物だ。人間が手を出しちゃいけないんだよ」
「……酔ってますね、ボス。マリファナとお酒はやめましょうよ」
「やらせてよ、遙」
「駄目です」
「何でよ。彼氏いるから?」
「いませんけど」
「やっぱいないんじゃん。いるって言ったりいないって言ったりお前よくわかんないね。でも俺お前のこと好きだよ。そうだ結婚しようぜ。そんならいいでしょ」
「妹さんとだぶるんじゃないんですか」
「関係ないよ。好きだよ遙。お願い。結婚して」
「……私はこの時代の人間とセックスできません」
「何? それ。お前どっから来たの?アイスランド? 100年前に海に沈んだのに」
「秘密です」
「秘密ばっかじゃん。辛いな。俺ばっか好きなんだお前のこと。愛してんのにな、こんなに」
「……キスならいいですよ」
「本当? ねえお前俺のこと好き?」
「秘密です」
「そればっかだね。まあいいや。お前とずっとこうしてたいな」
「Ég elska þig, ég elska þig」
「それもアイスランド語なの? 何て言ったの?」
「秘密です」
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