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勝手にしやがれ 2

「ねえ。名前なんて言うの?」
「知りたい?」
「まあね」

 彼女は枕元にあった雑誌の裏表紙にそのへんに転がっていたボールペンで殴りかいた。

「LEICA? レイカっていうんだ」
「あたしライカが好きなのよ」
「ライカって何だっけ」
「カメラ。それの綴りがLEICA」
「ふーん。本名?」
「どうでしょう」

 にっ、と彼女は笑った。色素のうすいショートヘア。ちいさな顔。悪戯っぽい大きな目。すこし濃いめのアイメイクに珊瑚色の口紅。

「俺、喬だよ。加納喬」
「たかし可愛かったな〜」
「犬だっけ」
「ほら、これ」

 彼女はiPhoneのロック画面を見せてきた。やたら細っこい犬だ。たまに街で見かける。

「イタリアングレーハウンドだよ」
「ふーん。やたらに細いね。俺もっと柴犬とか
ポメラニアンとかころころした犬が好きかも」
「たかしディスってんの?」
「や、そんなわけじゃないけどさ。しかしおなじ名前ってなんか複雑だな」
「君はたかしに似てるよ」
「えーそう?」
「飼ってあげようか」

 彼女はまっすぐな目で俺を見てきた。

「飼うって」
「君、いいモノ持ってるよ。調教してあげる」
「調教って。やめてよ」
「あんなによがってたくせに」
「…………」
「顔真っ赤」
「うるさい」

 レイカか。何か調子狂うなこの女。いままでの女はまるで小型犬のように俺にまとわりついては尻尾を振って。ちょっといじめてあげたらキャンキャン鳴いてよがっていた。これはあれだ、立場が逆転したということか?

「レイカ、お前って、」

 平手打ちされた。

「お前はないだろ?」
「…………」

 じんじんする頬。

「呼び捨てもやめな。レイカさんって言えよ。な?」
「…………」
「返事は」
「……はい」

 おかしいな。いままでだったら絶対になかった、こんなこと。なぜか甘い陶酔が俺を包む。
俺のモノは気づくとぎんぎんに勃起していた。

「ほら、見てみ? やっぱ君は上玉だね。潜在的にそうだと思ってた。見た目はSだけど。君はMだよ。ドM。ほら、こんなに勃っちゃってさ。糸ひいてる。恥ずかしいね」

 彼女は俺の先走り液を指ですくうと俺に見せつけてきた。

「どうしてほしい?」
「……好きにして……」

 そして俺はどうなったか。あーもう恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。もうやめて、ほんとに。作者も何考えてこんなのかいてんだよ。ああ、もう。

 事が終わると彼女は煙草をふかしながら言った。

「可愛かったよ、喬。もうあたしの犬だね」
「…………」
「返事は」
「……わん」
「よしよし」

 彼女は俺の頭を撫でてきた。俺が犬だったらめちゃくちゃ尻尾を振っていたかもしれない。

「……レイカさんって苗字何?」
「見原」
「みはら? みはられいか?」
「rei harakamiが好きなのよ、あたし」
「誰だっけそれ? 本名?」
「ふふ」

 彼女は悪戯っぽいくるくるとした目をして笑った。
 俺の飼い主。ちょっと悪くないんじゃないかな、っていう気持ち。

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