SOBGIT2s 19 Shall we see light,end.

と、いうわけで。
僕達はいまNYに住んでいる。NY港が一望出来る
高級ペントハウスだ。アオイ姉ちゃんって本当に
こういう贅沢が好きなんだよね。
4LDKにメイド付きだよ。アオイ姉ちゃんは双子を
産んだ。一と百だ。イチとモモ。どっちも男の子。
女の子だったら桃にしてたんだって。
一と百はメイドさんやナニー(シッターみたいなものだ)が
だいたい面倒見てさ。アオイ姉ちゃんとリョウはいま
コロンビア大学に通ってる。NY市のマンハッタン区だ。
オバマ大統領も通ってたらしいよ。大学のモットーは
"In Thy light shall we see the light”なんだって。
旧約聖書・詩編36編9節の"in thy light shall we see light"
【我らは汝の光によりて光を見ん。】を元にしているらしい。
アオイ姉ちゃんは肩甲骨あたりに十字架と林檎の刺青を入れた。
囓られた林檎だ。Appleだね。スティーブ・ジョブズは
オレゴン州のリード大学だったらしいよ。ビートルズや
グレイトフル・デッドを聴きまくっていた。僕と
音楽の好みが似てる。僕はいまNYにあるジュリアード音楽院に
通ってる。楽しいよ、めちゃくちゃ天才ばかりが集まってる。
正直日本でくだらないクラスメートがたむろする
学校に通ってたときより断然居心地がいい。常に
刺激的なんだ。アオイ姉ちゃんとリョウも楽しそうだ。


リョウはミステリーかホラー作家になりたいんだって。
スティーブン・キングが好きらしい。僕は本は苦手なんだ。
でもキング原作の映画は結構観たよ。シャイニング、
ミザリー、ITにペット・セメタリー。スタンド・バイ・ミー
なんか大好きだ。田舎町に閉じ込められた鬱屈と少年の日の
友情、冒険。リョウもいつかそういう物語をかくのかも
しれないね。9歳で牧師にやられて12歳で母親とやって。
それがもし小説のネタになってさ、リョウの魂が癒やされるなら
それでいいじゃないか。どんなに辛くて醜い気持ちがかかれていても
僕はリョウの物語をうけとめるよ。リョウの習作は読んだ。
まだ拙いけど結構面白いんだ。僕はリョウの一番の愛読者に
なりたい。あ、それはアオイ姉ちゃんなのかもな。


アオイ姉ちゃんも7歳のときに見知らぬ男にレイプされた。
どうしてこの世界はそんなことが起こるんだろう。
そいつも何か暴力によって屈したことがあったのかもしれない。
でもその矛先をより弱いものに向けてはいけないんだ。
僕達は負の連鎖を自分のところで断ち切らなきゃいけない。
そしてよい連鎖を繋げる。ペイ・フォワードだよ、映画でもあった
だろう?


僕達の両親は結局何の活動をしていたのかわからない。たぶん
政治的なことだとは思うけど。僕達の両親もこの世界を変えたかった
のかもしれないね。この世界を変えるには何をすればいいんだろう。
散弾銃でみんなを撃ち殺したりビルを爆破したところで何も
変わらないんじゃないかな。僕は自分と周りの人間の幸せを
願うことから始めたい。幸福の連鎖だ。それは蝶の羽音が遠くの
気象に影響を及ぼすようにゆっくりと、確実に世界を変える。
バタフライ・エフェクトだ。


この物語の始めは2444年だった。僕とリョウは17歳でアオイ姉ちゃんは
21歳。いまは僕とリョウは20歳でアオイ姉ちゃんは24歳。
一と百は3歳だよ。来年からはプリスクールだ。すごく
やんちゃでいたずらっ子だね。リョウが悪童日記という本を
読んでたよ。それも双子の兄弟の話らしい。フランスの本だ。
戦時下の話なんだって。作者の女性はハンガリー動乱の際
亡命したとか。かなりハードだったんだろう。


戦争に虐待に犯罪にさ、この2447年もいろいろあるよ。すべては
解決されないんだ、どんなに時が流れても。でも僕は諦めない。
いつか僕がつくった音楽で世界を変えるんだ。夢想家だと嗤われ
てもね。Imagine。John Lennonだよ。
ベトナム戦争の終結を願ってこの曲はつくられた。実際
ベトナム戦争は終わったじゃないか。凶弾に倒れても僕は
歌うよ。スティーブ・ジョブズが言った言葉。


“Stay hungry, stay foolish “


僕はいつまでもハングリーで馬鹿でありたい。
いつも笑っていたいんだ、どんなに馬鹿にされても。
この世界を愛したい、どんなに狂ったメロディが
流れても。きっと調律出来る筈だ、僕達なら。
明日はリョウの車でルート66をみんなでdriveするよ。
お気に入りのnumberをかけてね。
みんなで歌おう。この世界は美しいってさ。


end.



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