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TACHIKAWA dystopia 6 rpm

「あ、ボス。今夜は虹が綺麗ですよ」

「本当だ。完璧な円形だね」

「何個もある。結構早く回転してますね」

「10,000rpmだな」

「?」

「1分間に10,000回転している」

「そんなに」

「昔は夜に虹なんか出なかったらしいよ。それこそ……出始めたのは350年前くらいかな。その頃から地球の地軸はずれ始めた。7度くらいかな。いまはもう季節なんてないよね。いつも肌寒い。磁場は狂ったんだ。だから夜に出鱈目な虹が出る。太陽もそれこそ500年前には一つしかなかった」

「二つじゃなかったんですか」

「うん。俺もこれは図書館の閉架書庫にあった本で見ただけの知識だけど。いまのこの国はおかしいよ。大事なものは何一つ伝えずにくだらなくて緩いものしか俺達に与えていない。いま流行しているVRWEだってそうだ。あんなものは目眩ましだよ。俺達から自分の頭で考える機会を奪っている。マリファナも昔は違法だったのにいまは合法だ。これに溺れるやつも結構いるんだよ。俺は嗜む程度だけどさ。何もかも狂っているんだ。いつからだろうね。500年前はもっとこの世界はまともだったのかな」

「どうでしょうね……案外同じ感じだったかもしれませんよ。人間はそう簡単には変わらない。ボスも言ってましたよね」

「そうだよ。時間という概念は錯覚だ。本当は時間なんてないんだよ。過去も現在も未来も同時に並行して存在しているんだ。そしてそれらを内包した銀河は猛スピードで回転している。何もかもすべてが回転して振動して俺達は存在しているんだ。本当は何も無い。空で虚だ。ホログラムのように浮かび上がっては消え去る幻なんだ」

「……今夜も冷えますね。中にはいりましょうか」

「俺すこしマリファナが多かったかな」

「ふふ。いいんじゃないですか」

「お前の瞳は綺麗だよね。紫水晶……アメジストみたいだ」

「口説いてるんですか」

「いや……一般論だよ」


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