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Cien Años de Soledad 5

前回までのあらすじ:
馬古戸村に住む保瀬有次郎はチンドン屋の喜八郎から
いろいろグッズをもらった。やったね。


「はあ……お前さんときたら家のこともまったくしないで
何をやっているんだい……」
「天体の運行を観測しているんだ。喜八郎さんから
天体観測儀を貰いうけたんだよ。これで
正午をはかる精密な方法がわかるんだ」
「そんなんで夜通し起きていて日射病になりかけてるんじゃ
ないか。本当にお前さんときたら馬鹿だよ」


だがしかし。やがて器具の扱いに慣れた有次郎は空間という
ものをはっきり理解し、自室を離れるまでもなく未知の
大海原で船をあやつり、人家がないような土地を訪れ、
素晴らしい生き物と交わることもできるようになった。
ええ……しゅごい。Google Earth?


そしてその頃から有次郎の妻・瓜子と子ども達が畑で薩摩芋や
里芋、長葱や山芋、南瓜や茄子の手入れに汗水を垂らしていると
いうのに、ぶつぶつ独り言を言ったり、誰とも口をきかずに
家のなかをうろうろするというおかしな癖がはじまった。
ええ……やばいやつやん。
突然なんの前触れもなく、それまでの熱にうかされたような
仕事ぶりがやんで、一種の陶酔状態がとって代わったのだ。
うわあ……。


数日のあいだ物に憑かれたようになって、自分の頭が信じられない
のか途方もない推理の結果を独りつぶやいてた。あーツイ廃みたいな
もんか。やべえな。


やがて12月のある火曜日の昼飯どき、彼はその胸につかえていた
ことを一気に吐き出した。おそらく子ども達は卓袱台の向こうの
父親が長いあいだの不眠と、たかぶる妄想にやつれた熱っぽい体を
震わせながら、彼のいわゆる新発見をうちあけた際の、あの厳粛
きわまりない面持ちを生涯忘れなかったに違いない。


「地球はな、いいかみんな、伊予柑のように丸いんだぞ!」
「お前さんはいったいぜんたい何をお言いだい。変人はお前さん
だけで沢山だよ。ああいやだ、この子達にまで妙なことを
吹きこまないでおくれ!」


瓜子は腹立ちまぎれに天文観測儀を床に投げた。壊れた。あーあ。
そんな妻の凄まじい形相にもひるまず、保瀬有次郎は泰然自若と
していた。続く。


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